あの人のアンテナは、今、何をキャッチしてるのか。

週刊?!イザワの目

2016/02/10週刊?!イザワの目

2016年も1カ月が過ぎた。ビッグな話題が絶えず、早くも波乱の予感だが、今年は、いったいどのような年になるのだろう。トレンドの芽の発掘や、時代のサキヨミに長けた3人のメディア人に、今、どのような視座で何に注目しているのか、それぞれの視点から紐解いてもらった。

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『BRUTUS』編集長・西田善太氏/TVリサーチャー・喜多あおい氏/『WIRED』編集長・若林恵氏

20160210_digitalboard_02.jpg『BRUTUS』編集長・西田善太氏

<プロフィール>

1963年生まれ。早稲田大学卒業後、87年から博報堂第四制作室でコピーライター。91年からマガジンハウスで、BRUTUS、GINZA、Case BRUTUS編集部を経て、2007年から現職。

【今、注目のトピックス】 スナック・ドラマ・SF小説

立派な大人は行きつけのスナックが5軒ある

最初にあげたいキーワードは「スナック」です。『BRUTUS』では数年前から、ワインバーや居酒屋など、「おいしい酒場」に関するさまざまな特集を組んできましたが、その行き着く先がスナックだと考えているんです。スナックの大きな特徴は、扉を開けるまでどんな店かわからないということ。地下にあって携帯の電波も届かないような店も多く、ある意味、外の世界とは隔絶された場所。食べログの評価も気にならない別世界です。もうひとつ、スナックではママという"指揮者"を中心にその場に居合わせた人同士が仲良くなれる。当然、堅苦しい自己紹介もないから、フランクに話ができます。行きつけのスナックを5軒ほど見つけられたら、立派な大人だと言えるのではないでしょうか。僕はまだ2軒しかないんですけどね(笑)。

もうひとつは"コンテンツ"のこと。僕が注目している、というより夢中になっているのが「海外ドラマ」と「SF小説」。「ドラマ」は動画配信サービスが充実してきたので、いつでも気軽に観られるようになりました。少し前は「ブレイキング・バッド」というアメリカの連続ドラマにはまりました。今のおススメはAmazonプライムで配信している「ミスター・ロボット」。周りにもお薦めしていて、100人くらいに紹介したのだけど、ちゃんと観てくれたのは5人くらいでした。みんな忙しいのかな。テクノロジーが進んでも時間だけは開発できないものね。今は、物語のあらすじを知るだけならいくらでも手段がある時代だから、それで済ませて満足してしまう人が多いのだけど、そんなことで人生が豊かになるとは思えません。野球の試合をスコアボードだけ確認して過ごしているみたい。自分のために時間を使って、自分だけの言葉で感想を語れるようになる、ということがこれからとても大事だと思います。

「SF」は、70年代なんかは文学の最先端テーマでしたが、ここ数年、再びその勢いが出始めている気がします。現実がSFを追い越したようにみえて、今はSFのチカラを借りないと現実を咀嚼できない。一見、現代とは離れた設定で、恐怖や不安を表現することで、逆に本質的な問題を提起できることがSFの魅力ですね。

ともかく取り入れろ、でも全部じゃない

今の若い世代の中には、上の世代に面白いことをやりつくされてしまった、と感じている方もいるかもしれませんが、そんなことないですよ。僕も昔、そう思ってたけど、やれることは限りなくある。でも、上の世代よりも面白いことしたいんだったら、ともかく、本や映画などの既存の世の中のコンテンツを浴びるように、自分の中に取り込んでいく、カラダに入れていくことが重要なんです。話題のお店や、まだ人が知らないような注目の新店に片っ端から全部行くとかね。

ただし、とにかくたくさん読め、というわけではなく、積み上げて行く中で自分の個性ができあがればそれでいい。文学からサブカルチャー、政治、社会まで非常に広範な領域の評論などで知られる吉本隆明さんは生前、新聞5紙を読むだけで世の中のことを考えている、と話していましたが、個性と知性がある程度の域に達していれば、インプットはそれでいいと思います。自分のゆるぎない個性を生み出すことが大事です。そのためには最初はともかく取り入れろとか、でもなんでもかんでも全部じゃない、とか矛盾した2つのことを言っていますね、僕は(笑)。

仕事も同じことで、上司やライバルがやっていることを全部やってみて、よく知った上で、それ以外の領域にうって出ていくというやり方ができるはず。それで自分の武器が見えてくると思います。

今こそ、コンテンツそのものの価値を考えろ

「面白ければ手に取ってもらえる」という時代は終わりつつあります。雑誌を作っている身としては、面白いことは当然だけど、何をきっかけに、どういう仕掛けだったら手に取ってもらえるのか、ということを考えていかなければなりません。日々進化する「テクノロジー」を活用することも選択肢としてはあるけれど、今の時代、昨日通用した技術が、今日はまったく威力を発揮しないということが多々ある。だから、テクノロジーに追従することばかりを考えていてはキリがない。ですから、今こそ「コンテンツ」そのものについて、より深く考える必要があると思っています。「倍数で進化する時代」において、自分たちが本当に大切にすべきことは何か、見つめ直す時がきているのではないでしょうか。

20160210_digitalboard_03.jpg『WIRED』編集長・若林恵氏

<プロフィール>

1971年生まれ。平凡社「月刊太陽」編集部を経て2000年に独立。カルチャー雑誌で記事の編集、執筆に携わるほか、書籍・展覧会カタログの企画・編集も数多く手がける。音楽ジャーナリストとして音楽誌に寄稿するほか、ライナーノーツの執筆、音楽レーベルのコンサルティングなども行う。2011年から現職。

【今、注目のトピックス】ヘルス・ウェルビーイング

本質的な存在意義を再定義する時代

人は、テクノロジーが浸透して一般化すると、「今まであったもの、あれは一体何だったのだろう?」と、それまであったものの存在意義を改めて考えるようになると思っています。たとえば、「本」と「紙の本」は、今まで、イコールでしたが、電子書籍の登場と共に「紙の本とは何だったのだろう?」というようなことがテーマとして浮上してきます。あるいは、ビットコインの登場で、「そもそもお金ってなんだっけ?」と考えるなど、テクノロジーの発達と共に、それまであったものを再定義する必要に迫られるのです。

最近、体を測定するウェアラブル端末の話題がよくでてきますが、本やお金と同じように、テクノロジーが体と向き合うようになって、人は今改めて、「体とは何だろう?」と考える機会が増えてきています。そうしたなかで、人間の体は「静的で工学的な存在」ではなく、外の環境や自分たちの中に宿している環境に依存する一つの「エコシステム」なのだという考え方に、変わってきているような気がしています。だからこそ、「保全(=メンテナンス)」という考え方が重要になってきてるんじゃないかと。最近、予防医学や先制医療の話が出てくるのは、医療もその「保全」の方向に向かっているからだと思っています。

「わからないもの」を面白がる

僕は子どもの頃から音楽が大好きで、毎月1枚、レコードを買っていました。月に1枚ですから、当然チョイスに失敗することもあるわけです。とはいえせっかく買ったものですから、たとえ気に入らなくても、聴かざるを得ません。不思議なことに何度も何度も聴いていると、その良さが「わかってくる」ことがあるわけですね。自分の狭い価値観が拡張されていくわけです。その体験がすごくよかったと思います。そのおかげで、単純な好き嫌いとかそういうことでなく、自分の中に多様なモノサシをもてるようになったんだと思います。結果、知らないものや、わからないものを面白がれるようになったんだと思います。今の時代は、そういった体験があまりないのかもしれませんね。

新たな価値基準の構築に期待

「経済指標」に代わる価値基準の台頭に期待しています。今、あらゆる業界で「イノベーションを起こせ」と言われていますが、それをどう評価するかの指標が「経済指標」しかありません。だからすぐ売り上げに収れんされて、現行のマーケットから離れられない。結果として、ほんの少しのイノベーションしか起こせずに、新しいものが生まれないという負の連鎖が起きているように感じます。

テクノロジーの発達によって、あらゆることが数値化できるようになりましたが、それに依存しすぎる風潮にも違和感を抱きます。例えばウェブメディアの運営で言うと、PV数をどう伸ばすかということばかり語られてきたけど、それ以外にも大切なことはあります。これまで、数字ばかりを優先する人たちに対して、反論や説得をするための「何か」を持ち合わせなかったのですが、ここ最近、テクノロジーを生業としている人たちのなかからも、人文知やリベラル・アーツの重要性が、改めて語られはじめています。

20160210_digitalboard_04.jpgTVリサーチャー・喜多あおい氏

<プロフィール>

テレビ番組リサーチャー。株式会社ズノー執行役員。情報バラエティーからドラマまで、TVのリサーチを中心に企業など広い分野でも活躍。担当番組は「行列のできる法律相談所」他多数。著書に『プロフェッショナルの情報術』。「放送ウーマン賞2014」受賞。

【今、注目のトピックス】知新・損得デザイン力

オジサンが持つ、時を重ねることの魅力

温故知新の「知新」というキーワードが、今年のテーマになると思っています。昨秋、ラグビー日本代表が劇的な勝利を挙げたことをきっかけに、日本の魅力を日本人自らが見つめ直し、新しい可能性を見いだそう、という流れに、世の中が変化しました。日本全体が、これまで埋もれていた魅力をどんどん発掘しよう、という機運になると思います。

具体例を挙げると、今まで「さえない」として埋もれていた、ステレオタイプな日本の「オジサン」に注目が集まると考えています。すでにNHKの朝の連続ドラマや大河ドラマでは、ベテランのオジサン俳優が人気です。政治家においても、これまでは若々しくバイタリティーのある人が支持されていたと思いますが、これからは、今後の行く先を示してくれそうな経験豊富で分別ある「オジサン」に注目が集まると思います。その理由は、オジサンには「深く刻まれたしわ」や「白髪」など、これまでの経験を裏付けるような「時間の経過」を象徴するアイテムがあることです。今、人は価値判断する際に「時間」を考慮するようになったので、時を重ねた「オジサン」の魅力や価値が再注目されると思います。

損得デザイン力を刺激する

私はリサーチャーという仕事をしていますが、リサーチとは、調べた情報、もしくは大量の情報から見えてきたものによって、クライアントの課題を解決したり、クライアントのアイデアスイッチを押すという仕事です。TVの情報番組やドラマの制作チームがクライアントになることもあれば、企業や官公庁とお仕事をする時もあります。

今、世の中でどんなことが注目されているか、TVの制作現場を例にしてお話しすると、「がん」が挙げられます。「がん」は今、視聴者にとって、非常に関心度の高いテーマです。

かつて、少しでも長く生きることがよしとされていた時代には、延命するにはどうしたらいいか、完治するにはどうしたらいいか、という特集が好まれましたが、今は違います。視聴者の気持ちは多様化してきていて、長く生きることが目的の人もいれば、限られた時間であっても今を充実させるのが目標の人もいます。つまり、人の価値観、「損得の判断基準」がひとつではなくなってきているのです。ですから、「がん」に関する情報を全部見せて、「あなたの欲しい情報はどれですか?」「あなたがよしとする価値はなんですか?」と問うような番組作りが求められています。一人ひとりの「損得価値」つまり、「損得デザイン力」を刺激するようなコンテンツを提示する、ということですね。

生活者のビビッドな気持ちを汲み取る

人々の「損得デザイン」や「価値観の揺らぎ」の対象として、「労働」も今後注目のテーマです。働くということに改めて敬意を表したり、十分な休暇を取ることを奨励したりするような動きが、ますます増えてくるでしょう。例えば、今年初めて正月休みを設けた三越伊勢丹や、時短勤務をする子育て中の女性社員にも、通常通りの勤務シフトやノルマを与えることとした資生堂などに対して、多方面から賛否が巻き起こりました。このような議論が生まれるのは、生活者の希望や不安といった「ビビッドな気持ち」を反映しているからこそだと思います。視聴者、生活者の中に流れる空気を見誤ることなく、その気持ちを汲み取ることで、一人一人に役立つ情報を提供していきたいですね。

Photography=Mariko Takasu

Text=Taiki Aoyama, Hayato Mangoku, Tsukasa Nakagawa

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電通PRでは、2016年のトレンド予測として、注目の「ヒト・コト・トレンド」をサキヨミしてまとめた「ヒトコトレンド2016 電通PRヨムヨム」を発行しました。本誌で特集した、BRUTUS 西田善太編集長、WIRED 若林恵編集長、売れっ子TVリサーチャー 喜多あおいさんのほか、日経ビジネスオンライン池田信太朗編集長にも、今年の注目トピックスについて寄稿いただいています。さらに、電通PRの五感とリサーチ力を駆使してキャッチした2016年のお楽しみ予測も満載です。こちらも合わせてご覧ください。

この記事を書いた人

週刊?!イザワの目
Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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