東京カレンダー 躍進の理由/代表取締役社長 菅野祐介氏インタビュー

週刊?!イザワの目

2016/01/07週刊?!イザワの目

2016年が幕を開けた。

広報・PRは、昨年、メディアリレーションズの次なる一手として、企業自らコンテンツを作り、発信していく時代へと突入。今年、その傾向はますます強くなると言われている。しかし、すでに世の中にはコンテンツが溢れており、多くの人に見てもらうのは至難の業だ。

そんな中、昨年2月のリニューアル後、わずか10カ月で月間1,000万PVを達成し、1,500%超の成長を遂げたサイトがある。

今年で創刊15周年を迎える雑誌「東京カレンダー」のWEBサイト、「東京カレンダーWEB」だ。

サイトのコンテンツを一新し、店検索や店紹介といった定番機能にとどまらず、「東京女子図鑑」に代表される連載小説を次々に公開し、急成長。予想もしなかったやり方で、業界をアッと言わせた。

東京という、特定エリアに特化したWEBサイトが、結果的に全国の読者を夢中にさせている。その成功の秘密はどこにあるのか。

「イザワの目」新春インタビュー班は、これまで多くを語らなかった、東京カレンダー株式会社の代表取締役社長 菅野祐介氏を直撃。今の時代に成功する、コンテンツマーケティングの極意を聞いた。

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リアル・エンタメの追求

-「東京カレンダーWEB」は、昨年2月にリニューアルしてから、すさまじい成長ぶりです。

菅野祐介社長(以下、菅野):ありがとうございます。予測してやってきたことの方向性が間違っていなかった、ひとつの証明だと感じています。

-どのような方向性で制作しているのですか?

菅野:一言で言うと、「リアル・エンターテインメント」の追求です。東京という街を舞台に繰り広げられる、生々しいエンターテインメントを一次メディアとしてしっかり伝えていきたいと考えています。「東京カレンダーWEB」の基盤は、もちろん、雑誌「東京カレンダー」にあります。2001年の創刊以来、15年もの間、グルメ、しかも外食という外で体験を楽しむジャンルをコアコンピタンスとして、東京の隅から隅まで徹底的に歩きまわってきた「東京カレンダー」のスタッフたちだからこそ作れるコンテンツです。取材で見つけてきた宝石を、紙なのかWEBなのか、どういう形で出すのが一番いいのかを考えて、形にしています。当社の編集部には、WEBしかできない、誌面しかできない、という担当者はいません。

-雑誌「東京カレンダー」は全国で発売されていますよね。でもよく考えてみると、「東京」の話題しか取り上げていないという...。

菅野:そのとおりです。雑誌「東京カレンダー」は全国誌ですが、実は「東京」というエリアにローカライズされたメディアです。ですから、自然と「東京カレンダーWEB」もそうなります。インターネットだから、雑誌よりもさらにエリアを問わずに見られる情報源なのに、「東京」に特化しています。でも、それこそが成長の秘訣だと思っています。

-東京に情報を特化してしまうと、ターゲットが限られてしまう気がします。コンテンツの作り手として、怖くないですか?

菅野:もちろん、発信する情報を絞り込んでいくことは、運営側としては怖いですが、これだけインターネットが普及した今、「広く浅く」の情報は逆に求められないと思っています。コンテンツの作り手は、どうしても、幅広いターゲットにリーチしたいと思いがちですが、そうすると平均的な無味無臭のコンテンツになってしまう。「東京カレンダー」はその逆を張っています。徹底的に情報を深く掘り下げ、特定層にアプローチしていくことで、情報の価値を上げ、拡散してもらおうという考え方です。

例えばイタリアンのおいしい店を紹介する場合、「東京カレンダー」では、対象の一皿だけを紹介するのではなく、「あの広尾の交差点を曲がったところの2つ目の信号を少し右手に入ったところにある、ツタに覆われた小さな看板のお店。あの一種独特な雰囲気の店の○○がおいしいよ」というレベルの情報まで掘り下げて発信します。

-描写が細かいですよね。目に浮かぶというか。

菅野:そのコンテンツに、ライフスタイルを想起できるか、ということを大切にしています。ライフスタイルというものは、抽象的なものではなく、具体的なものです。細かなローカル情報までを盛り込むのは、その一皿にたどり着くまでのストーリーというか、その一皿を真ん中に置いた時の、周辺の人生模様を表現していくということにチャレンジしていきたいと考えているからです。極端な話、おいしいだけのお店はもういらないんです。その一皿を誰と食べるのか、どういう夜に食べに行くのか、そこに至るまで電車で行くのかタクシーで行くのか、そのお店を出た後、2軒目も行くのか、などの「ストーリー性」を大切にしたいと思っています。

ですから、どうしても、ローカライズした表現や深く掘り下げたコンテンツになります。それゆえに、全国津々浦々にリーチすることはないですが、逆にユーザーには「これは自分のコンテンツだ」という「マイコンテンツ感」を持ってもらうことができます。それが共感を生み、ひいては拡散につながります。漫然とリーチを狙った情報よりも、一人一人に最適化したコンテンツこそが、パワーを持つ時代になってきていると思います。

-ユーザーが「他人ゴト」ではなく、「自分ゴト」として捉えることができるコンテンツということですね。場合によっては、あたかも自分が体験しているような気持ちになりますね。

菅野:今の時代、プロダクト訴求が本当に難しくなってきていますよね。もっと体験型のコンテンツが求められていると思います。「東京カレンダー」は、まさにそこにはまっているんじゃないでしょうか。「東京カレンダー」に抽象的なコンテンツはありません。その気になれば実際に体験できるものをコンテンツとして提供しています。

-表現方法もリアルだし、提供している情報の中身もリアル。そういった「リアル」なコンテンツを発信していることが、体験欲求や疑似体験を生み、ユーザーにウケているのでしょうね。

菅野:そうですね。「東京カレンダー」の名前の由来は、みなさまの手帳のカレンダーをすてきな思い出で埋め尽くしたい、その人の人生を艶やかにしたい、という思いからきています。創刊から15年経って、ある意味で原点回帰した結果、みなさまのカレンダーを埋めるリアルなコンテンツと、それを彩るストーリーを提供したいと考え抜いて、今に至るということですね。

東京女子図鑑はほぼノンフィクション


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話題の火付け役となった連載「東京女子図鑑」

-リアルにこだわっているというお話がありましたが、「東京女子図鑑」などの連載モノは、小説、つまりフィクションですよね?

菅野:東京女子図鑑」に代表される連載小説は、もちろん人物設定や多少の脚色はありますが、ノンフィクションに近いフィクションだと考えてください。

-ということは、あれは実話に基づいているのですか?!

菅野:これまで、東京を駆けずり回って「東京カレンダー」を作ってきましたが、その中で出会う人たちの個性的な生き方自体が、何よりも面白いコンテンツであると感じました。あの小説に出てくる主人公のように、"東京だからこそ巻き起こるさまざまな価値観に翻弄されながらもたくましく生きる方々"にたくさん出会ってきたんです。

もともと、「東京女子図鑑」は、連載形式で定期的にユーザーとコミュニケーションしたいとチャレンジしてきた中で生まれたコンテンツです。そのコンテンツの内容を考えた際、そういう"波乱万丈な人生"を謳歌している人たちにスポットを当てたいと考えました。

-街を舞台に繰り広げられる、人生模様を表現したわけですね。

菅野:みなさん、ひとくくりに「東京」とおっしゃるかもしれませんが、実際のところはエリアによって、全然違います。例えば犬の散歩なんかをしていると、東に行けば行くほど、すれ違いざまに密なコミュニケーションを取る方が多かったりするんですよね。女性の歩くスピードも違う。街ごとの異なる生態を追って行くとどうなるだろう、というところから、あのコンテンツはスタートしました。始めたものの、恵比寿に住んでいる、東中野に住んでいる、というだけだと「点」の情報でしかない。

その人がその街に住もうと決めた、前後のストーリーがあるはずだと気づいたんです。そういった点と点をつなぐ、「ストーリー」を表現する、ストーリーテリングにこそ価値があると考え、主人公を通して表現していきました。

あの連載を掲載している間、主人公にモデルはいるのかとか、さまざまな議論が起こりましたが、少なくとも「作りごと」ではありません。「リアル」に勝る「エンターテインメント」はないですよ。

-「リアル・エンターテインメント」のひとつの形というわけですね。

菅野:いろんなご意見をいただきましたが、それはあのコンテンツに対する意見というよりは、"東京で生きる"ことそのものに対する議論だったと考えています。だから、みなさん、あれだけ意見を持たれたのではないかと思います。東京って、世界一エキサイティングな街だと思うんです。他国の大都市と比較しても、コンサバティブではないですよ。「東京カレンダー」は東京を賛美もしますが、一方で客観的に見ているところもあり、東京にはおかしいところや、実際に生きていると「しんどい」と感じることもある、それを表現しています。これまでは東京をうまくクリエイトして、きれいに見せてきたかもしれませんが、そういう整えられすぎた美しすぎるものには、そんなに価値はありません。ブラックボックスというか、美しいとか楽しいだけではない、ダークな一面もひっくるめてうまくエンターテインメントに昇華していく。まだ不器用ですが、そういうことをやっていきたいと思っています。

-「議論を起こす」ことは、PRの持つ大きな役割であり、成果の一つです。そういう意味で、非常に成功したコンテンツですね。きれいな面だけじゃなくダークな側面も表現したことが、東京の「リアル」を想起させ、ヒットコンテンツとなったのでしょうか。

菅野:リアルな人の人生を考えた場合、いや、たった一日をとってみても、人の考え方や行動ってあべこべで、整合性なんてあまりとれていないと思いませんか。編集の仕事は本来、整合性を取る、という側面があると思います。でも、人の生き方やライフスタイルはそんなに整合性が取れた美しいものではなく、もっとめちゃくちゃです。あのコンテンツを作ったときに皆さんが感じた「違和感」は、その「整合性のなさ」だったのではないでしょうか。我々もおかしいなと思うことはありましたが、あえてそれを無理にきれいにしなかったことでユーザーが自由に解釈できる「余白」が生まれ、それが、より「リアル」なコンテンツになったのではないかと思います。

-「解釈の余白」にヒットのカギがあるというわけですね。

菅野:今回のヒットは、変に編集しつくされたコンテンツよりも、「余白」があるほうが、「リアル・エンターテインメント」として、ユーザーにフィットしてくるケースだと思います。

これからのメディアの在り方を考えていくと、万人に届けるためのコンテンツやプロダクトというのは、かえってユーザーには伝わらないと思います。中途半端なことをすると誰も見向きもしない。いかに周辺のストーリーを深く掘り下げて、体験訴求をしていくか、それが重要です。私たちのフィールドは、そういったことに向いているんじゃないかと思い、振り切ったことをやっていこうとチャレンジした結果、ああいうコンテンツになっていったのだと思います。

-ヒットコンテンツに育てるためには、日々、さまざまなPDCAを行っていると思いますが、どのように検証しているのですか?

菅野:コンテンツ制作も分析も、100%自社開発したシステム上で一元的に取り組んで行っており、ユーザーの反応をデイリーにチェックして、すぐにコンテンツに活かしています。自分たちが予期せぬ反応や学びから、次のアイデアのヒントを得たりもします。ビジネスとしてはPVといった指標が必要になりますが、すべてをPVで管理するわけではありません。コンテンツ単位でKPIを考えています。数字を稼がないといけないコンテンツもありますが、数字は伸びなくても特定の人たちの心をしっかり刺すためのコンテンツもあります。コンテンツごとに役割を持たせて分析をしているのが実態です。一つの指標ではなくトータルとして、東京カレンダー・クオリティになっているかが大事ですね。マネジメントのコストはかかりますが、そこは、グループ会社であるフューチャーアーキテクトのITのノウハウを生かしながらやっています。

-今後の目標を教えてください。

菅野:マンモスメディアに比べるとまだまだ小さいですが、専門的なカテゴリーキラーになれるのではと思っています。かつて、百貨店から家電量販店やドラッグストアなどの専門店が独立していったように、インターネットの世界もコンテンツ淘汰が始まり、カテゴリーニッチなものが巨人を浸食していく時代に入ったと思います。世界で一番エキサイティングな街「東京」に一番詳しいメディアとして、食とそれにまつわるライフスタイルという観点から、徹底的に「東京」を紹介し続けることに情報価値が出てくるのではないかなと思っています。

-深い情報・リアル・体験、このあたりが今後もキーワードですね。

菅野:「リアル」に対する力はより求められていくでしょうね。例えば音楽の世界も、CDや音源ではなく、ライブで集客できるアーティストが強くなってきています。このように、今後はアナログな「つながり」が、より重要になってくると思います。ネットサーフィンしているだけではもう満足できず、より「深い情報」、「リアル」な「体験」を求める人が増えてきているので、私たちもリアルイベントや集客にどんどんチャレンジし、立体的に「東京カレンダー」の屋号を形作っていきたいですね。何を使命としたメディアなのか、ということを突き詰めていくことが、マンモスメディア以外のメディアが生き残る勝機。それを突き詰めていくことで、「人を巻き込む力」につながると思っています。

-企業の情報発信にもつながる視点ですね、ありがとうございました。




20160107_digitalboard_03.jpg■プロフィール

菅野祐介 -Yusuke Sugano-

慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、フューチャーアーキテクトに入社。スーパー、百貨店、コンビニエンスストア、通販などの大型プロジェクトのマネジメントで豊富な実績を積む。現在はディレクターとして主に流通・小売業を中心とした複数のプロジェクトを統括。13年6月、グループ会社である株式会社eSPORTS取締役就任、14年2月、東京カレンダー代表取締役に就任。

photography=KENTA ARAI

text=YUMI IZAWA, SAORI TAKEUCHI

この記事を書いた人

週刊?!イザワの目
Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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