地方自治体PR合戦 滋賀県の石田三成リブランディング戦法

週刊?!イザワの目

2016/05/19週刊?!イザワの目

地方自治体によるWEB動画づくりは、近年活況を呈し、話題づくりの戦国時代に突入している。

そんな中、バズらせるだけで終わらせないとして、WEB動画の話題化という空中戦に注力する一方で、地道な地上戦も繰り広げ、リアルなファンづくりに努めている自治体がある。滋賀県だ。

滋賀県が、昨年12月から今年3月まで展開した「石田三成発信プロジェクト」に迫る。

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石田三成をテーマにしたPR動画第1弾

三成をキラーコンテンツに

「滋賀県と言えば石田三成、石田三成と言えば滋賀県。この図式をつくれば、間違いなく滋賀県のキラーコンテンツになると思いました」と話すのは、同県広報課の林純基さん。「石田三成発信プロジェクト」は、滋賀県が全国的な認知度向上を課題に掲げている中、県ゆかりの偉人に着目して地域活性化を図るアイデアが評価され、内閣府の地方創生交付金を活用したプロジェクトとして始動した。

滋賀県では、「石田三成」をテーマに施策を大きく3つに絞り込んだ。PR動画の制作、WEBサイトの構築、そして首都圏および県内でのイベント開催だ。そしてこれらの取り組みがさまざまなメディアで露出されるよう、PR戦略を設計した。

「PR動画だけをつくっても、さらなる情報を得るためのWEBサイトがないと、仮にバズった時の受け皿がありません。あくまで動画は入り口なので、それを補完するためのWEBサイトは欠かせないと思いました」と林さん。ネット上で三成の話題を盛り上げておいて、ファンになった人たちが語り合う「リアルな場」も必要だと考え、イベントの実施も必須項目とした。2015年11月に業務委託のためのプロポーザル公告を出し、12月のキックオフを目指して動いた。

ネットからリアルへ広げる

12月をキックオフとしたのには理由がある。翌年1月から放映のNHK大河ドラマ「真田丸」で、石田三成が登場するためだ。登場前に、三成が滋賀県ゆかりの武将であること、人物像などを広く知ってもらい、その上で大河ドラマを見てもらえれば、三成の活躍と共に滋賀県の認知度、好感度も上がる、とのもくろみだった。

2月に「石田三成×滋賀県」ポータルサイトを立ち上げて準備を整えたところで、3月5日、都内でイベントを実施すると共に、石田三成をテーマとしたPR動画第一弾を公開した。「武将と言えば三成~♪イチ、ゴー、ロク、ゼロ、滋賀県生まれ♪」。ゆる~い、レトロな雰囲気の映像と、耳に残る歌が反響を呼び、SNSでの拡散はもちろん、WEBメディアでの取り上げをきっかけに、多数のテレビ番組でも紹介された。公開から1カ月も経たないうちに、再生数は100万回を超え、動画をフックに、ポータルサイトのアクセスも一気に伸びた。

動画拡散による取り上げが継続的に行われる中、3月27日にはPR動画の第2弾を公開。石田三成の人柄や功績を伝える理解促進型の動画を展開することで、石田三成への好感度向上を図った。

加えて、ネットでの盛り上がりが醸成された3月末には県内の機運の盛り上げを目的に、滋賀県内で三成について語り合うシンポジウムを実施。三成は「冷徹な敗戦の将」なのか、本当は「義の武将」なのではないか。「真田丸」の制作統括であるNHKチーフ・プロデューサーや、歴史好きのアイドル「歴ドル」などが参加し、三成の人物像を再評価する議論が盛り上がった。

同シンポジウムの来場者アンケートによると、参加者の9割近くが「石田三成への好感度が高まった」と回答。「石田三成のことをもっと知りたいと思った(32%)」「石田三成ゆかりの地に行ってみたいと思った(21%)」など、WEB発の情報が、今や、リアルにおける輪の広がりや滋賀県の観光促進にも寄与し始めている。

今やらずに、いつやる

滋賀県の成功の秘訣は、他にも多くの資産があるにもかかわらず、歴史上の人物である石田三成に特化したことにある。しかし、何か一つに注力することはリスクもある。不安はなかったのだろうか。

「以前から、戦国時代のコンテンツは、滋賀県の魅力的な素材の一つだと考えていました。なかでも石田三成は著名な武将でありながら、これまでは人柄や、滋賀県との関連性が十分に情報発信されてこなかったので、むしろ可能性を感じていました」(林さん)。近年、戦国時代ゲームなどで、若い世代にも認知度や好感度が高まってきたことや、「真田丸」の放送があることも、必ず追い風になると見越んでいた。「不安がゼロだったわけではありませんが、全国的な三成旋風を吹かせるための下地は十分整ったと考え、今やらずにいつやる、と思いきりました」(林さん)。

長浜市、米原市、彦根市の石田三成ゆかりの3市とスクラムを組んだ展開により、民間企業でも機運が高まっている。プロジェクト開始以前から「三成タクシー」の運行など、ゆかりの地では観光促進に向けた取り組みがなされていたが、本プロジェクトを受け、石田三成にちなんだグルメを集めた「三成めし」や今月14日からはゆかりの地3市による「MEET三成展」が開催されるなど、さらなる接点づくりと、観光促進に繋がる施策を行っている。

PR動画でヒットを飛ばしても、空中戦だけやっているのでは「実」がない。見た人が検索した時にまとまった情報が「ある」、興味を持った人が現地を訪れる契機が「ある」、訪れた人が実際に三成を体感できる機会が「ある」と、「実」の「ある」状態をつくりだしておくことはもちろん、県が先導するだけではなく、民間企業も県民も一緒になって石田三成を自分ゴト化し、盛り上げる機運をつくりだすことが重要だ。

「県が施策として取り組むだけでなく、県民のみなさん一人ひとりにとって、石田三成が誇りだと思ってもらえたらいいですよね。そのためにも石田三成のリブランディングが必要でした。三成を思う気持ちが全国に伝わって、滋賀県そのものの好感度が上がり、今年度の観光誘客や、地域の活性化につながればいいなと思っています」(林さん)。

関ヶ原の合戦の敗将として知られていた石田三成を、滋賀県由来の賢将としてリブランディングすることで、県内外の人が興味を持ち、その多くが好意さえ抱き始めている。石田三成を通じて、全国の人が滋賀県の魅力を再発見する日も近い。

Report by Masahiro Tanaka

この記事を書いた人

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Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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