日本大学が危機管理学部を創設! 今求められる「危機管理」のエキスパートとは?

週刊?!イザワの目

2016/04/07週刊?!イザワの目

災害だけでなく、情報セキュリティやテロなど、さまざまな"危機"と向き合わねばならない現代において、"危機管理のエキスパート"を育てることが急務になっています。そんな中、今年4月、日本大学に新学部「危機管理学部」が創設されました。

今号では、同学部創設に携わり、『リスク・コミュニケーションとメディア」『大震災とメディア』などの著書も執筆されている福田充教授と、企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)副所長である阪井完二の対談が実現。日本の危機管理意識に関する問題点や、危機管理のエキスパートに求められる視点などについて、お話しいただきました。

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左から、日本大学危機管理学部 福田充教授、企業広報戦略研究所副所長(電通パブリック リレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略室 室長)阪井 完二

■「リスク」も、「クライシス」も

阪井完二(以下 阪井):新学部の設立、おめでとうございます。「危機管理学部」創設の構想はいつごろから考えていらっしゃったのでしょうか。

福田充教授(以下 福田):ありがとうございます。6年前の2010年ごろです。

阪井:2011年に起きた東日本大震災の前から構想が始まっていたんですね。

福田:以前より日本の危機管理に対する考え方に疑問がありました。日本では、リスクを未然に回避する「リスク・マネジメント」と、災害などが発生した後に対応する「クライシス・マネジメント」を区別せず、一括りに「危機管理」としてしまっています。特に、事後分析や事後対応の訓練などの「クライシス・マネジメント」に偏重している企業が多いですね。しかし、この二つは区別して考えなくてはいけません。危機管理学部では「リスク」と「クライシス」の両面から危機管理能力を養えるよう、サポートします。

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【企業広報戦略研究所「企業の危機管理に関する調査」危機管理ペンタゴンモデル】より

■「リスクコミュニケーター」が重要

阪井:われわれ企業広報戦略研究所が行った危機管理力調査においても、危機を未然に防ぐための"予見力"不足が企業の課題として挙がっています。先生は企業が"予見力"を高めるためにはどのような取り組みをすればよいとお考えですか。

福田:日本の危機管理においては、"インテリジェンス"が大きく遅れていると考えています。今、世の中には大量の情報(インフォメーション)があふれていますが、それらを「自分ゴト化」して組織・戦略に生かせるように加工することが"インテリジェンス"です。このインテリジェンス能力を鍛えることが重要なのですが、日本では風土的になかなか育っていないのが現状です。あらゆる情報に対して"自分たちには無関係"と思い込まないで、常にアンテナを張り、単純に情報をかき集めるだけではなく、それを自分の立場から考えて自分ゴト化させる動き(=インテリジェンス)が大切です。

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阪井:その通りですよね。リスクになりうる情報を集めていても、「自分ゴト化」するための想像力やリスクシナリオを描く力が不足していたことで危機を回避できなかった事例も多数見受けられますね。

一方でわれわれの調査では、危機管理において、組織のトップの"リーダーシップ"が非常に重要だという結果が得られています。福田先生はどのようにお考えでしょうか。

福田:リーダーシップが重要なのは間違いありません。有事の際にこそ、トップのリーダーシップが問われます。ただ、組織の中には社長だけでなく、部長や課長などの各階層のリーダーがいます。トップダウンのコミュニケーションも重要ですが、一人ひとりがリスク・リテラシーを高めて組織全体の危機管理力を高めるボトムアップの動きも必要不可欠です。

また、「リスクコミュニケーター」の存在も重要です。個々の専門分野でのリスク対応者らを束ね、コミュニケーションをスムーズにマネジメントできる人材のことですね。有事の際、例えば技術災害や大規模事故などでは、理系の専門家にリスク対応を任せることが多くなりがちですが、彼らの専門的な情報は概して難解で、わかりにくい。それらをわかりやすく説明し、相互の意思疎通を円滑にする文系的な役割を担う人材、つまりリスクコミュニケーターが重要になってきます。

危機管理学部では、そのような人材も育てていきたいと思っています。

■知見の"定着"が大事

阪井:新学部は、貴重な危機管理人材の育成の場となるわけですね。"企業における"危機管理人材の育成を考えた時、私は非常に難しい問題があると考えています。というのも、日本企業においては、定期的なサイクルで"異動"というシステムがあり、スペシャリストが育ちづらい環境にあるからです。知見が"定着"しづらい環境が企業内の危機管理人材を育てるうえで大きな障壁になっているかと思うのですが、その点、いかがお考えでしょうか。

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福田:おっしゃる通りだと思います。先ほど申し上げたインテリジェンスとも関連しますが、企業の危機管理人材を育てていくためには、組織の一人ひとりの"想像力"や"発想力"を鍛えることが必要不可欠と考えます。セミナーなどを定期的に開催し、リスク・コミュニケーションにおける失敗例などを話し合って、発想力を育てていくことなどは有効な手段の一つです。たとえば海外で発生している危機などは、「自分に関連しないから他人事」と考えてしまいがちですが、それを「自分の組織でも起こりうる危機だ」と考える"想像力"や"発想力"が予見力につながるのです。そうやって自分の組織について、ひとつひとつのリスクを潜在化している状態から発見して事前に対応する。スペシャリストが育ちづらい環境にあるからこそ、個人のリスク・リテラシーを高め、ボトムアップしていく必要があります。

阪井:私も企業の危機管理をコンサルタントする立場として、"発想力"や"想像力"を鍛えるためにも、あらゆる失敗事例を社内で共有する機会が重要だと、改めて感じています。

福田:その通りですね。あらゆる失敗事例を組織内で共有して、再発させないことや、他社の失敗事例を自分ゴト化していくことが企業の危機管理において、重要と言えるでしょう。

■「セーフティ」から「セキュリティ」へ

福田:私は、危機管理は「セーフティ」から「セキュリティ」に意識を変えていかなくてはいけないと思っています。日本は今も、「自分たちが気を付けていれば安全(セーフティ)である」という認識で危機管理を考えています。これは例えば、自分が交通規則を守って車を運転し、車がきちんと整備されていれば車の事故は無い、と考えているようなものですね。しかし、実際はそうではない。落石に襲われるかもしれませんし、交通規則を守らない車に巻き込まれる事故もあります。外部からの事故や災害、犯罪というリスクを考える、「セキュリティ」の意識を持たなくてはなりません。

阪井:日本はリスクが無いことが尊ばれる、いわゆる「ゼロリスク神話」からまだ抜け出していないのかもしれませんね。

福田:その通りですね。ゼロリスクを追求して危機において被害が発生したら責任者を処罰するという論理では危機管理は育ちません。ゼロリスクではなく、被害を極小化するダメージ・コントロールの発想への転換が必要だと思います。

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■危機管理なくして成長なし

阪井:現代はネットやSNSの発達によって企業の活動と消費者からの評価が、ともに伝わりやすくなっていますよね。われわれは「評価経済」と呼んでいるのですが、企業にとって消費者などステークホルダーからの評価が非常に大切な時代になってきていると思います。

福田:企業が危機に対してどう行動したかも、評価される時代ですね。

阪井:例えば、先日航空会社でシステム障害が発生しましたが、その時に係員が適切に対応したため、ネットでは「神対応」と称賛されていました。危機への対応次第で、企業の評価が上がることも、下がることもあります。私は「危機管理なくして成長なし」だと考えています。

福田:まさにその通りですね。危機の時こそ、企業の成長が左右されます。

阪井:この危機管理学部から日本の危機に立ち向かえる人材がたくさん育ってくれることを願います。そして、卒業したらぜひ当社でも活躍してもらいたいですね!

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日本大学危機管理学部 教授

福田 充 (ふくだ みつる)

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション。内閣官房委員会委員、コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員などを歴任。日本災害情報学会会員、警察政策学会会員など。著書に『メディアとテロリズム』(新潮新書)、『テロとインテリジェンス〜覇権国家アメリカのジレンマ』(慶應義塾大学出版会)、『リスク・コミュニケーションとメディア』(北樹出版)など。

企業広報戦略研究所 副所長

電通パブリック リレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略室 室長

阪井 完二(さかい かんじ)

1992年、株式会社電通PRセンター(現・電通パブリックリレーションズ)入社。

IT、情報通信、製造業、インフラ事業、自治体、行政、スポーツ団体などさまざまなジャンルのPR実務/コーポレートコミュニケーション業務に従事。また、各種法規制やレギュレーションの変化に企業経営を適合させるためのイシューマネジメントの計画・実行、内部統制実効性担保やコンプライアンス経営の推進、また、緊急記者会見等のコンサルティング、風評被害対応、レピュテーションマネジメントなどを手がけている。

text= SHINTARO NOSHIRO/YUKI SATO/NATSUKI MASE
photography=MARIKO TAKASU

この記事を書いた人

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Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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