主要PRアワード PRWeek Awards Asiaに寄せて

週刊?!イザワの目

2016/07/14週刊?!イザワの目

今年で15回目となったPRWeek Awards Asia(2016年6月開催当時の名称。7月からPR Awards Asiaに名称変更)は、『PRWeek』『Campaign』などの、PRやマーケティング専門誌を出版する「ヘイマーケット・メディア」が主催するもので、アジア太平洋地域を対象としたPR界のアワードである。今年は17の国と地域から733件の応募があった(昨年625件)。年々増えるエントリーに、同地域におけるPRの注目度の高さがうかがえる。審査は、企業やエージェンシーから選ばれた67人の審査員とヘイマーケット社所属の審査員長によって行われた。

今年、同アワードの最高賞であるCampaign of the Yearを受賞したのは、シンガポール建国50周年を記念し、国民からシンガポール内の思い出の場所や好きな場所を募集し、地図化する「SG Heart Map」だ。

本号では、PRWeek Awards Asiaに参加した二人のPRプランナーが現地の様子をレポートするほか、受賞に向けた視点を紐解く。

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Photo by PRWeek Awards Asia

20160714_digitalboard_02.png谷本 直也

(株)電通パブリックリレーションズ コンサルタント

(電通 PRプランニングセンター所属)

(社)日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー

2010年電通パブリックリレーションズ入社。

企業のパブリックリレーションズ活動を広く経験。主に企業ブランド・製品の統合マーケティングにおけるPRプランニング・エグゼキューションまでを手がける。IPRA Golden World Awards for Excellence、PRWeek Awards Asia、WOMMY AWARDSなどで海外アワード受賞多数。

優れたキャンペーンは、惜しみなく評価

6月15日、香港の中心部、JWマリオットホテルでPRWeek Awards Asiaの授賞式が開催された。毎年この直後にフランス・カンヌで行われる、カンヌクリエイティビティフェスティバル(カンヌライオンズ)の授賞式が、大きなコンベンションホールを会場に、アワードのパスを持つ人なら誰でも入れるシアター形式で行われるのと異なり、同アワードはホテルのバンケットルームで、ディナー形式で行われる。会場に入れるのは、ショートリスト以上に残ったエントリー者と一部の協賛関係者だけだ。エデルマン、フライシュマンヒラード、MSLグループなど、世界を代表するPRグループの面々が参加する中、私も、電通グループでエントリーしたキャンペーンメンバーの一員として会場にいた。

約3時間かけて、全31部門の受賞結果が次々に発表されていく。かつて同アワードは、各部門から1つのキャンペーンを選んで賞を授与していたが、昨年から各部門にゴールド・シルバー・ブロンズの3つのカテゴリーを設け、表彰を行っている。部門ごとにブロンズから発表され、シルバー、ゴールドと続く。ディナーデーブルを囲んでいる参加者の中から受賞者が出ると、そのテーブルは拍手喝采だ。もちろん、会場中からも祝福の拍手が送られる。受賞者は、壇上でトロフィーを受け取り、それを掲げて写真撮影に応じる。

受賞結果を目の当たりにして驚いたことは、「良いキャンペーンには、良い評価を」「レベルに到達しないものは、表彰しない」という事実だ。例えば、Public Education Campaign of the Year部門ではゴールド0件・シルバー2件・ブロンズ0件であり、Media Relations Campaign of the Year部門ではゴールド2件・シルバー0件・ブロンズ1件という結果だった。つまり、ゴールド、シルバー、ブロンズのそれぞれの賞に見合うエントリーがなければ、0という結果もいとわないということだ。カンヌライオンズでも、グランプリの該当なし、ということはあるが、各賞が該当なしというのはあまり聞いたことがないので、正直、意外だった。

審査員長シルク氏からのヒント

授賞式の前に、今回の審査員長を務めたアティファ・シルク氏(ヘイマーケット社・ブランドディレクター)にクライテリア(審査基準)について話を聞いた。

シルク氏によると、クライテリアの一つは、「キャンペーンに明確な目的を持っているか」だという。「私はいつもクライアントのビジネス成果に大きく寄与するようなサポートが必要と考えています。つまり、ROIですね」

PRキャンペーンのクライテリアを「ROI」と表現したのは、非常に興味深い。確かに、PRWeek Awards Asiaのエントリーシートには、任意ではあるが、「プロジェクトの予算規模」の記述欄がある。カンヌライオンズの、少なくともPR部門のエントリーにはない項目だ。このことからも、PRWeek Awards Asiaにおいては、審査員が「費用対効果」を強く意識している、または意識せざるを得ないことがうかがえる。

続けてシルク氏は、こうも言った。「審査員の半数はクライアント側であることも忘れずに。クライアントはいつもROIに関心を持っています。何が成果なのか? そしてその成果をどう見せるのか、が求められます」

これはとても重要な情報だ。カンヌライオンズのPR部門は、一部アドを含むが、PRを生業の中心とするエージェンシーから審査員が選ばれている。しかし、PRWeek Awards Asiaはクライアントを半数含むという。今年は、アメックス、ソニー、マイクロソフトといった、グローバルブランドのアジア地域のPR担当責任者が参加していた。ビッグアイデアや共感できるストーリーよりも、実質的な「成果」が好まれることは、確かだろう。もちろんシルク氏も、「そのうえで、誰もが分かるストーリーを持つこと」と、最後に付け加えることを忘れなかった。

広がりの余地はリザルトへ

ここ数年、カンヌライオンズに代表されるさまざまなアワードにおいて、PRキャンペーンは「ストーリーテリング」や「ソーシャルグッド」、「ビヘイビアチェンジ」などの言葉で語られ、評価されてきた。当時はそれがPRのトレンドワードとして注目されたが、今はそれが、PRキャンペーンならば持ってしかるべき視点として定着したように思う。

シルク氏が強調した「ROI」とは、本来「投資した資本に対して得られた利益」のことを指すが、シルク氏が、何をもって「Return=利益」と表現したのか、今回、明確な回答を得ることはできなかった。しかし、重要なのは、目的とリンクした成果が出ているか、ということだと感じている。

今回、自らが関わり、同アワードの3部門で重複受賞したドールのキャンペーン「The "Wearable_Banana" 」では、海外での大きな反響(海外178カ国での動画アクセス)と、ブランド力および、売り上げ向上を成果として挙げていた。また、同じく3部門で重複受賞したパナソニックの「LOVE THERMO #愛してるで暖めよう」は、「愛」を言葉にして伝える行動喚起の広がりとともに、オウンドメディアへのアクセス・製品購買意欲・ブランド力の向上を強調していた。具体的な成果は両者で異なるが、両プロジェクトともにそれぞれの目的に合致した一定の成果を挙げた。

このことからも推察されるように、すべてのプロジェクトにおいて、同じ指標の「成果」が求められるわけではないのだろう。例えば、人権団体のNPOならドネーション額、パブリックアフェアーズなら法案可決など、キャンペーン当初に掲げた目的をブレずに達成したのか、その成果は明確か、ということが求められているのだと思う。過去のエントリーでは、企業の株価向上や融資金額の獲得などを達成したものもある。コミュニケーションを着火剤に、変えられるものはこんなにも多様なのか、ということに改めて気づかされた。

ともすると、「アワードを獲るようなPRキャンペーンは、世の中を変えているはず。PRキャンペーンは、世界をよりよくしていかなければならない」と思い込みがちだが、クライアントのビジネス成果と誠実に向き合うことが大切だということも再認識した。クライアントと共に真摯に成果を積み重ねる先に、よりよい世界があるのかもしれない。

20160714_digitalboard_03.jpg和田 朋子

(株)電通パブリックリレーションズ シニアコンサルタント

(社)日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー

2003年電通パブリックリレーションズ入社。入社以来リサーチ業務に携わり、MC領域、CC領域双方においてリサーチ起点のプランニング、施策実施、コンサルティング業務までを幅広く手がける。現在は動画コンテンツのファクト開発やリザルトの検証に関わることが多い。

より幅広いターゲットの「態度変容」が評価の分かれ目?

今回のPRWeek Awards Asiaは、複数部門で重複受賞するキャンペーンもあれば、受賞ゼロのキャンペーンもあるという、「明暗」がはっきりと分かれるものとなった。受賞キャンペーンとそうでないものの差はどこにあるのか? パナソニックの「LOVE THERMO #愛してるで暖めよう」を基に考察したい。

カンヌライオンズにおいても、「アイデア」と「リザルト」のコネクションの強さがクライテリアとなっていたように、PRWeek Awards Asiaのエントリーにも、ファクトの波及によって態度変容を実現したものは、受賞の有無にかかわらず複数見られた。評価の分かれ目はどこにあったのだろう。

今回の大会で審査員を務めたエマ・スミス氏、グレッグ・ブルータス氏によると、3部門で受賞を果たした「LOVE THERMO #愛してるで暖めよう」は、まず、審査の過程で涙を流すくらいのエモーショナルさがあったという。さらに「母親と娘、夫婦といった複数の組み合わせでファクトを検証しており、さまざまなターゲットにおける態度変容を促していた」ということが、評価につながったとのこと。受賞を逃した別の作品を見ると、ティーンエイジャーなど特定のターゲット層のみの態度変容にとどまるものも多く、より広い「態度変容の波及」や「共感の連鎖」が、受賞の明暗を分けたようだ。

また、受賞パーティーの同テーブルの参加者からは、「LOVE THERMO #愛してるで暖めよう」は、「愛は言葉で伝えるべきだと意識変化をさせられるだけでなく、実際に身近な人に愛を言葉で伝えたくなる、そして、伝えられた人がまた他の人に伝えたくなる、という2次・3次のコミュニケーションを生む態度変容を促すことができているキャンペーンだ」という意見も得られた。

今年、同アワードの最高賞を受賞した「SG Heart Map」は、メディアやインフルエンサーを巻き込み、結果として国民全体がキャンペーンの参加者となったことが受賞のポイントとなっている。その中で、キャンペーンに参加した世代が、別の世代に働きかけることにより、その世代もキャンペーン参加者になる、といった「波及型」のコミュニケーションが生まれたと聞いている。

つまり、PR会社からの仕掛けによる態度変容の第一波にとどまらず、ターゲット自らが、自発的に2次・3次のコミュニケーションを生む「波及型の態度変容」を起こしているかどうか、この点がPRWeek Awards Asiaで受賞するひとつのカギとなっているのではないだろうか。

<パナソニック社「LOVE THERMO #愛してるで暖めよう」>

パナソニック社が2015年にスタートした白物家電のシリーズ広告「ふだんプレミアム」では、製品機能だけでなく、ライフスタイルなども提案することを目指していた。「LOVE THERMO」は、同シリーズ広告において、エアコンをテーマとした動画だ。

パナソニックの最新のエアコンには、人によって感じ方が異なる「暑い」「寒い」をセンサーが感じ取り、それぞれに快適で心地良い冷暖房を届ける「温冷感センサー」を搭載しているが、この「温冷感センサー」を直接的に訴えるのではなく、「感情をゆさぶりシェアされるコンテンツ」に昇華させることによって、商品の潜在需要の底上げを図った。

"愛は、ひとを暖める。"をテーマに、普段なかなか言葉にしない、家族からの感謝や愛の気持ちを伝えられる前後で、体温にどのような変化があるのかを検証。その結果、体温が平均0.8℃上昇することを明らかにした。

2016年1月21日の大寒の日に公開後、800万回を超える視聴数を獲得。高い波及力を通して、家族に愛を言葉で伝える人を3割増やすという態度変容を実現した。

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主な受賞作品紹介


■Campaign of the Year/Best Use of Digital「SG Heart Map」

シンガポール建国50周年祭の一環として、国民の思い出の場所を募集し、地図にするキャンペーン「SG Heart Map」を展開。幅広い世代の国民が参加したほか、リー・シェンロン首相や各企業のCEOまでもがプライベートな思い出を共有し合い、クラウドソーシングマップの作成に加わった。同キャンペーンは、国民が、自国シンガポールをより身近に感じる機会となり、新たな絆を創出。シンガポール建国50周年祭で最も注目された施策の1つとなった。

クライアント:SG50

エージェンシー:Tate Anzur

Re-discovering your cherished places with SG Heart Map (Photo Credit - 50 First Kisses).jpg

■Japan/Korea PR Campaign of the Year「FingerBand Campaign」

韓国の保健福祉部(日本でいう厚労省)が実施した、「反喫煙キャンペーン2015」。政府によるタバコ値上げを背景に、「喫煙習慣は治せる」ことを今一度、主に若年層に知らしめ、タバコ値上げに理解を促すことを目的に展開された。従来のようなマスコミ中心のPRではなく、韓国で爆発的ブームの「WEBTOON(ウェブマンガ)」を中心に据え、人気作家と組んで反喫煙マンガを制作。さらに作品中に登場させたフィンガーバンド(タバコを吸う際に人差し指と中指の間に挟むことに着目し、この二本の指を縛るバンド)をSNSで反喫煙を表明した人たちに提供し、これをアイドルグループや芸人などがインフルエンサーとして盛り上げていった。その結果、キャンペーンでの反喫煙表明者は30万人近くにのぼり、大きな社会運動となった。

クライアント:Ministry of Health and Welfare

エージェンシー:FleishmanHillard Korea

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この記事を書いた人

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Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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