世論を作る、動かす、味方につける! 理研・小保方氏に見る、記者会見の極意

週刊?!イザワの目

2014/05/16週刊?!イザワの目

いまだに話題が絶えない「STAP細胞問題」。このほど理化学研究所(以降、理研)は、STAP細胞をめぐる論文に捏造や改ざんなど「研究不正」があり、再調査は行わないという調査委員会の結論を発表しました。

この一連の報道は、今年1月にSTAP細胞問題が新たな万能細胞として発表されたことに始まります。リケジョとして世の中の注目を浴びた研究リーダーの小保方氏でしたが、さまざまな方面からの論文内容を疑問視した声を受け、理研がこの3月、論文にデ-タの捏造・改ざんがあったと発表しました。

一転、世論は小保方氏への批判ム-ド一色。そんな中、小保方氏が会見を行うことになりました。この会見がもたらした影響とは。特集班が迫ります。

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※イメージです。

Inverse(対立構造)を生み出した、小保方氏のテクニック

4月9日。大阪の某ホテルに300人を超えるメディアが殺到した。目的はリケジョとして注目を浴びた理研・小保方晴子氏の会見だ。「小保方氏の記者会見はまさに大成功で、見ている人々を巻き込んだ、まさに"小保方劇場"だったと言えるでしょう」と話すのは、電通PRでコミュニケーション戦略・危機対応を専門とする許光英だ。「今回の勝因は、あえて勝因と言いますが、"STAP細胞の有無、科学者としての倫理観"という論点から"1人で頑張る健気な女性=応援したくなる"というイメージ・印象論に持ち込んだことにあります」

izawanome2.jpg今回の会見を通じて、Twitterでの支持・不支持に言及したつぶやき数を見ると、実は小保方氏を応援する声や会見の姿勢を評価するポジティブな内容が、批判する内容の2倍以上に上っているのである。つぶやきの内容を見ると、『真摯に伝えようとしている』という小保方氏の会見の姿勢を評価したり、『小保方氏だけが標的にされている』と理研の対応を批判するようなつぶやきが多く、小保方氏の会見を機に世論がガラリと変わったと言っても過言ではない。

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▲毎日新聞世論調査室による調査。分析ソフトにより1万人のツイッター利用者を無作為抽出。そのうち小保方氏に関係するツイートをした利用者は全体の約12%。ツイッターでつぶやいた人の10人に1人以上が小保方氏についてなにかしらの投稿をしている。

「今回、もし会見をやらなければ世間の印象は小保方氏を"捏造を行ったインチキ科学者"としていたでしょう。しかし、会見を行ったことで、受け答えや対応などの印象から、『小保方氏(前向きでやる気はあるが未熟な女の子)VS理研(利用したが、結局は捨てようとしている大人たち)』や『小保方氏(ひとりぼっちの女の子)VSメディア(よってたかって追い詰めようとする大人たち)』というような対立構造ができ、STAP細胞の"あるなし"ではなく、大衆の中に"かわいそうじゃないか""もういいじゃないか"という、なんとなく応援したい気持ちを生んだのです。まさにPRの基本であるPR IMPAKTのInverse(対立構造)が多重的に成立した会見だったと言えます。大衆にメッセージを届け、大衆の心を動かすことができた希有な会見でした」

どこが良かった、小保方氏会見

この対立構造を生んだ小保方氏の会見は、謝罪や説明会見を行う他企業にとっても参考になるポイントが多いという。「まずは冒頭の挨拶。6分間にもおよぶ経緯説明だったのですが、ほとんど紙を見ず、暗記した状態で臨んでいました。これはなかなかできることではありません。さらに、記者の方をしっかりと見ながら、真摯に話す姿勢が印象に残っています」これは小保方氏が公式見解をまとめた『ポジションペーパー』をしっかりと用意していたことや、伝え方も十分に意識していたためであり、おそらく、事前に入念なトレーニング・練習を行っていたと考えられる。

「今回は司会者の対応、質問の振り方もうまかった。担当弁護士が司会を担っていたのですが、一人一問の質問を的確に区切って、更問(さらとい)しようとする記者をうまく制止したり、質問の内容が会見の趣旨から外れたものであった場合は釘を刺すなど、うまく仕切っています。関西弁で緊張感を和らげたのも効果的でした。こういった会見の場合は、司会者の判断ひとつで風向きが変わってしまうこともあるので、実は司会者の事前トレーニングを行うことも重要です」

そのほか、クライシス時の会見には欠かせない「何時間でも会見をやる覚悟」もあったという。

「会見をやると決めたら、気持ちは『まな板の鯉』。無理に質問を打ち切るとかえって記者側のフラストレーションがたまってしまうので、質問は100問でも受けて立つ覚悟がなければいけません。また、不祥事の際は会見が生中継で放送される可能性もあります。実は生中継の場合は、都合良く特定のシーンだけを切り取られないため、有効な場合もあります。小保方氏の場合、質問した記者を目で追い、答える際は少し乗り出す仕草をするなど、記者の質問に1問1問真摯に答える姿が印象的でした。こうした姿を視聴者がリアルタイムで見ていることを意識した対応も大事なことです。さらに今回は記者の質問がくどくなると、視聴者が記者に対して反感を持ち逆に小保方氏を応援したくなるという副次的効果も出てきました」

小保方氏の会見から学ぶべき、企業の準備

小保方氏の会見は、イメージ論に持ち込んだことで大成功に終わった。では企業のクライシスではどのように対応するべきなのだろうか。「実際にクライシスが起こってしまうと、ポジションペーパーやリリースの作成、各部署との連携、そして経営トップへの意識付けなど、やらなければいけないことがたくさんあります。そのため、日ごろから緊急時を想定したトレーニングを行うことが不可欠です。しかし、会見本番では通常のトレーニングでは考えられない、登壇者にプレッシャーを与えるような質問が飛び交うことが想定されます。そのプレッシャーに慣れておけるよう、会見直前には再度、より厳しい質問・言動によるトレーニングを行うこと、行わせることが広報にとっては必要でしょう」

記者会見では登壇者が100名以上の記者を相手に質問を受けることも少なくない。こうしたプレッシャーに耐えられるよう、そしてその中できちんと会社の見解を伝えられるよう、日ごろからのトレーニングを行っておきたい。「また、今回の一件を踏まえて、企業側で考えておきたい視点は多数あります。例えば研究所。研究所は本社機構から見た場合、特別視されてチェックの目が届きづらい場合があります。その中で、コンプライアンスや業務のPDCAサイクルがきちんと機能しているかの検証が重要でしょう。また、解雇した社員が逆襲の会見を開き、企業を攻撃するケース。この場合は、レピュテーション低下の防止が今回の事案から参考になるでしょう。しかし、まずは不祥事や会見を起こさない企業風土を作り上げることが大事で、そのためにはチェック機能を強化すると共に、インターナルコミュニケーションを見直すことが必要です。今回の一件はその良いタイミングかもしれません」

企業が知っておくべき!要注意の法制度

小保方氏の一連の騒動でキーとなったのが、「研究ノート」の存在。STAP細胞の研究をまとめたノートがあまりに少ないことが批判の対象になった。実はこれ、企業にとっても笑いごとではない。

米国には、訴訟に関連すると認められた証拠は原則として全て提出が義務づけられる「ディスカバリー」という制度がある。日本企業が米国で訴訟を起こされた場合、この制度に従って情報を全て開示せねばならず、違反した場合は制裁を受けることもあるのだ。

日本企業の多くは、こうした強力な証拠開示請求を想定した情報管理をしておらず、無防備であるといえる。まさに、突然ノートの提出を求められた小保方氏と同じなのである。

企業がいつ米国で訴訟を起こされるか、また、いつ日本でもこのような制度が制定されるかは分からない。事業の立ち上げに関する稟議書や経営判断資料など、日頃から文書の書き方、残し方を明確に定めるなど、情報の管理を徹底する必要が大いにある。

(原稿:ハセガワ、ショージ、ノッシー)

この記事を書いた人

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2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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