人と地域をつなぐローカルメディア-地域活性に「編集者を生かす」という考え方-

週刊?!イザワの目

2016/09/15週刊?!イザワの目

地方創生の波に乗り、地域の活性化を目指す自治体や地元企業などの活動が、特に最近目立っている。地域の魅力を体験できるようなイベントを開催したり、興味を抱くきっかけになるような動画をつくるなど、その取り組みはさまざまだ。そんな中、地域活性化の一助とすべく、"紙"のメディアづくりを推進している人たちがいる。デジタル化が進む中、なぜ今、"紙"メディアなのだろう。その理由と今後の可能性について探った。

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"紙メディア"が、ハブになる

2013年9月、十和田奥入瀬芸術祭をテーマに、書籍『十和田、奥入瀬 水と土地をめぐる旅』(青幻舎)が発行された。企画・編集を手がけたのは、十和田奥入瀬芸術祭のエディトリアル・ディレクターを務めた影山裕樹さん。影山さんは、「地元の人や読者とコミュニティをつくったり、地元の課題を解決するために、"紙"メディアだからこそ、できることがある」と話す。

十和田奥入瀬芸術祭は、2013年秋に開催された、青森県の十和田市現代美術館開館5周年を記念して、現代アート作品を展示する地域アートプロジェクトだ。

「芸術祭はアーティストの作品や入場者数などの記録集として会期後に出版することが多いんです。でも、それだと手に取る人って、関係者ばかりですよね。せっかく出すなら、10年後も読まれるほうがいいと思いました。それには、芸術祭の記録集じゃなくて、地域をテーマにした"本"が必要だと考えました」(影山さん)

同書は気鋭の作家に依頼し、十和田湖、奥入瀬渓流、十和田の町、それぞれをテーマに新作小説やエッセイを書き下ろして収録。グラビア写真も撮り下ろし、芸術祭の会場だけでなく、全国の一般書店でも販売された。「芸術祭の記録要素もゼロ、宿や食事などのガイドブック要素もゼロ。そういった情報はネットで調べれば手に入ります。それよりも、この本にしかない価値を残したかったんです。とは言っても芸術祭の予算でつくる書籍ですから、主催者や参加アーティストも『この情報は入れてほしい』という思いはあったと思います。でも、あえて削ぎ落として、何年後も読まれる『本』としての魅力を追求しました。その結果、会期中は、この本を道中読みながら来場してくれるお客さんもいましたし、3年経った今も書店に置いてもらっています」(影山さん)。アーカイブ性の高い紙メディアの特徴がよく生かされた例だ。

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十和田奥入瀬芸術祭をテーマにした書籍『十和田、奥入瀬 水と土地をめぐる旅』

そんな影山さんは、自身が手がけた書籍と同じように、地域の活性化を目指してつくられている各地の"紙メディア"に注目し、今年6月、著書『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)を上梓した。

「この本を書くにあたり、単なる観光情報や店舗紹介ではない、地元の"人"や日常に潜む"ストーリー"を伝えている、魅力的なローカルメディアにたくさん出会いました。それらは単なる情報発信ツールにとどまらず、地域の人たちがつながる、もしくは地域の課題を解決する"ハブ"になっていたんです」と影山さん。その事例として同書でも取り上げている2つのローカルメディアを紹介してくれた。

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影山さんの著書『ローカルメディアのつくりかた』では、コンテンツ・デサイン・読者とのコミュニケーションなど、さまざまな面で工夫を凝らす、ローカルメディアが多数紹介されている

北九州市:地元×よそ者で作る

福岡市に隣接する北九州市のフリーマガジン「雲のうえ」は、人口減少という課題を抱える中、観光客に北九州市の魅力を伝えることを目的に、2006年に創刊された。創刊号では、酒店の余っているスペースで、酒と簡単なつまみを提供する"角打ち"を特集。湾港工業地帯の労働者が朝の仕事明けに一杯やる定番のスタイルで、今も市内に100軒以上残る、いわば北九州名物だ。同誌は、そういった市民の日常に着目し、地元を愛する人たちの人生や考え方を"ストーリー"として紹介する。今でこそ、こういった読み応えのあるエッセイスタイルのローカルメディアは増えたが、「日常にこそ地域資源が潜んでいる、という視点を初めて持ち込んだ、行政発ローカルメディア」と影山さんは称す。

北九州市役所が事務局を担い、地元企業や市民などが参加する組織「北九州にぎわいづくり懇話会」が発行元となっている。編集委員には、東京在住のアートディレクター、画家、編集者の3人がクリエイティブチームとして加わっているという。外の視点をうまく取り入れる体制を敷きながらも、自治体も任せっきりではない。事務局を務める市役所の職員が、事前のリサーチや取材交渉などを行い、長期間にわたる取材やロケハンにも同行。編集委員と一緒に考え、同じ立場で作り上げている。影山さんの取材によると、その忙しさは尋常ではないというが、自分の関わったことが、手に取れる、形になるということも、市役所職員のモチベーションにつながっているという。

「紙メディアの特性を存分に生かし、よそ者と地元の人が一緒になって地域を"編集"することの大切さを体現している、すてきなメディアですよね。中の人は、表現するノウハウや客観的な視点を持っていない。でも外の人はその地域に関する情報量も少なく、本質的な課題も分からない。その溝を埋めるためには、"ローカルな情報"と"魅せ方"をどう掛け合わせるかが大事だと思います」と影山さん。議論を交わし、一緒に"つくるプロセス"を経ることで、外部のノウハウは地元の血肉となり、地元の悩みは可視化され、外部と共有される。ここで生まれた"つながり"によって、思わぬ地域資源が発掘されたり、課題解決の新しいアイデアが生まれる可能性だってある。

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北九州市のフリーマガジン『雲のうえ』

城崎温泉:地産地読を目指す

「誰にどのように届けるのか。その地域やメディアならではの届け方ができるのが、"紙"のローカルメディアの面白さでもあります」と影山さん。その面白さを存分に発揮した代表例が、兵庫県豊岡市の城崎温泉の取り組みだ。

城崎は、志賀直哉をはじめとする多くの文人が逗留したことで有名な、歴史ある温泉地。ブックディレクターとして知られる幅允孝さんが仕掛け人の一人となり、文学で城崎を盛り上げようとする動きが活発化している。スタートは2014年。この年が、文豪・志賀直哉の来湯100周年にあたることから、城崎温泉の複数の旅館の若旦那衆が少しずつ資金を持ち寄って「NPO法人 本と温泉」を立ち上げ、書籍を初刊行した。出版したのは、志賀直哉の名著『城の崎にて』をオマージュした、小説『城崎裁判』だ。『鴨川ホルモー』『プリンセス・トヨトミ』などを著したベストセラー作家・万城目学さんが、城崎温泉に滞在して着想を得、新作として書き下ろした。

温泉につかりながらでも読めるように防水加工され、装丁には本物のタオルが使われている。買えるのは、城崎温泉の旅館やお土産店などの地元の店舗のみ。お取り寄せは不可だ。"地産地読"の試みとして注目を浴び、発売から一週間で、初版1000部のうち500部が売れたという。つまり、一週間のうちに少なくとも500人が実際に城崎温泉街の販売店でこの本を手に取ったことになる。食材に比べて格段に賞味期限が長い"本"が、温泉街の新しいお土産となった瞬間だ。同時に『城の崎にて』の注釈本も発売。これらが好評を博し、今年7月には、山本周五郎賞を受賞した作家・湊かなえさんの小説『城崎へかえる』が、新たに発売されている。

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兵庫県豊岡市の城崎温泉で生まれた『城崎裁判』と『城の崎にて』の注釈本。

『城崎裁判』は、温泉に入ったままでも読みやすい書籍にすべく、防水加工の紙を使い、タオル地のカバーで包まれている。

まちの女房役に、編集者を

今、なぜ地域活性化に "紙メディア"なのだろう。改めて影山さんに聞いた。

「紙メディアの中でも特に本を作るためには、必ず編集者が必要です。かつての編集者は、"作家の女房役"という役割を持っていた。どうしたら本が売れるのか、読まれるのか、作家の人気が続くのか。短期的な成果ではなく、5年、10年後の売れ行きや社会的評価の道すじを立てるのが編集者の仕事です」(影山さん)

そんな編集者のスキルは、単に本を作るためだけではなく、今、さまざまな地域のプロモーションやプロジェクトを推進するために活用されつつある、と影山さんは語る。「打ち上げ花火的な一瞬の盛り上がりでなく、地域が長く愛されるためにどうしたらいいかを考える時に、編集者の視点が役に立つんだと思います。つまり、作家の女房役ではなく、"まちの女房役"になる、ということです。単年度で事業評価を行うのではなく、長期的な評価基準を大事にする編集などのクリエイティブの視点は、これからどんどん行政にも必要になってくると思います」

日々、大量の情報を消費することに慣れている今の生活者にとって、紙メディアを活用するという発想そのものが新しく感じられるのかもしれない。その地域にしかない情報を、その地域にしかできない方法で表現し、じっくりとその地を変えていく方法のひとつとして、ユニークなローカルメディアの動向に、今後も注目が集まる。同時に、まちを舞台にした編集者の活躍も、これから目が離せない。

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20160915_digitalboard_07.jpg影山裕樹(かげやま・ゆうき)さん

編集者、プランニング・エディター

1982年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、雑誌「STUDIO VOICE」編集部を経てフィルムアート社に入社。『ヨーゼフ・ボイス よみがえる革命』『じぶんを切りひらくアート』『横井軍平ゲーム館 RETURNS』などの美術書、カルチャー書を多数手がけた後に独立。2010年に「OFFICEYUKI KAGEYAMA」を立ち上げ、書籍の企画・編集、ウェブサイトや広報誌の編集、展覧会やイベントの企画・ディレクションなど幅広い業務を行っている。プロデュース・編集した書籍に『地域を変えるソフトパワー』『秘密基地の作り方』『大人に質問!』など。近年は「フェスティバル/トーキョー」(2012、2013)「十和田奥入瀬芸術祭」「札幌国際芸術祭2014」など各地の芸術祭やアートプロジェクトに編集者、ディレクターとして関わる。著書に『大人が作る秘密基地』、『ローカルメディアのつくりかた』、共編著に『ゲームの神様・横井軍平のことば』『十和田、奥入瀬水と土地をめぐる旅』など。「NPO法人 芸術公社」設立メンバー/ディレクター。

Report by Yumi Izawa, Saori Takeuchi

この記事を書いた人

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Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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