ヒット映画『リトルプリンス』に学ぶ、相思相愛のコラボ術

週刊?!イザワの目

2015/12/10週刊?!イザワの目

『リトルプリンス 星の王子さまと私(以下、リトルプリンス)』(公開中)や『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(12月18日公開予定)など、この冬、話題の映画が目白押しだ。

映画の封切りに合わせ、オリジナルグッズの販売はもちろん、さまざまな企業とコラボレーションを行うなど、各映画会社ではプロモーションに工夫を凝らしている。

編集部では、世界的ベストセラーである、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説『星の王子さま』の映画化に初めて成功した話題作『リトルプリンス』のプロモーションがアツい、との情報を入手。そこで、同作品の配給会社、ワーナー・ブラザース映画 (以下、ワーナー)のマーケティング本部 部長、小杉陵氏に、その狙いや背景を聞いた。

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転機は『るろうに剣心』

Q. 現在公開中の『リトルプリンス』は、ワーナー史上最大級のプロモーションを仕掛けているそうですね。ワーナーでは、今までどのようなプロモーションを展開してきたのでしょうか。

小杉氏 以下、敬称略)実は約10年前までは、本国で製作した映画を日本で配給するのがメインでした。アメリカの大作映画は公開初日を告知すれば1年に4本くらい映画館で見てくれるお国柄なので、プロモーションそのものが日本とは違います。しかし、日本は年に約1.3本しか映画館で見てくれない特殊な市場なので、映画館で上映する予告編や、テレビCM放映といった通常の広告のみではお客様はなかなか劇場に足を運んでくれません。そこで、お客様とのタッチポイントづくりに力を入れる必要がありました。当社はこれまで、自社製作の邦画でさまざまな企業とのタイアップやコラボレーションに取り組んでおり、作品ごとのプロモーションを強化してきましたが、大きな転機となったのは『るろうに剣心』シリーズですね。

Q.具体的に 『るろうに剣心』シリーズが転機となった理由を教えてください。

小杉)2012年8月に公開した第1作『るろうに剣心』の興行収入実績が約30億円と良かったというのもありますが、まず、主演俳優が広告契約をしていたロッテとタイアップしCMをオンエアしました。俳優がセリフを"かむ"こととガムを"かむ"ことをかけ、俳優が劇場で映画を見ていると、セリフをかんでしまったNGシーンが流れるというストーリーです。映画のNGシーンが映画公開に先駆けてCMで公開されるのが斬新でした。また、2014年に封切りされた続編では、『るろうに剣心』のモデルである「河上彦斎」ゆかりの地、熊本県の協力で、国指定重要文化財や県登録有形文化財などで大々的な撮影を行い、主演俳優に扮したくまモンが陣中見舞いに駆けつけるなど熊本県と一緒にキャンペーンを行いました。公開年の4月1日には、剣心役にくまモンが起用されるというエイプリルフールネタも仕掛けました。『ハリー・ポッター』シリーズでもなかった展開としては、ワーナー・ブラザースで初めてセブン・イレブンと大々的なタイアッププロモーションを行いました。企業とのタイアップ・コラボレーションに、行政との協力(特にロケ地の協力)、オリジナル商品づくりによるライツビジネス。これらの施策によってお客様とのタッチポイントを増やすことができ、お客様の手の届くところに作品を持っていくことができたと思います。『るろうに剣心』シリーズが象徴的な例ですが、邦画の積極的なプロモーションで興行収入を伸ばせた実績により、本国もタイアップやコラボレーションをより重視するように変化しつつあります。大きなタイトルではまだまだ難しい部分もありますが、これまでタイアップやコラボレーションができていなかった洋画でも徐々にできるようになってきています。

映画を見てもらうきっかけづくりを

Q. その集大成が『リトルプリンス』のプロモーションということですね。

小杉)『リトルプリンス』は、1943年の原作出版から72年目にして、初めてアニメーション映画化が実現した作品です。ワーナー・ブラザースでは日本とドイツが配給権利を獲得し、本国ではなかなかできないタイアップやコラボレーションに早い段階から着手しました。また同時に、原作の挿絵を含めて、サン=テグジュペリ エステート(権利管理者)から権利をすべてワーナーが取得。これにより企業との交渉が有利になり、11月21日の公開に向けて、大小約15のさまざまな仕掛けを実施できました。オリジナルの挿絵を使った商品化も実現し、『ハリー・ポッター』シリーズを上回る1100アイテムを展開しています。

Q.具体的にはどのような仕掛けを行ったのでしょうか。

小杉)髙島屋とは、クリスマスシーズンの催事「タカシマヤクリスマス」において、全店舗で『リトルプリンス』とのタイアップが実現しました。髙島屋が全店規模で映画とタイアップするのは創業初のことだそうです。「星の王子さま」の象徴であるバラが、髙島屋のシンボルでもあるという共通点や、クリスマス商戦というタイミングもあって実現できました。全店舗での館内装飾をはじめ、11月19日から12月1日には日本橋タカシマヤの特設会場で、12月には横浜、大阪、京都のタカシマヤを巡回する大型展覧会を実施。ワーナーが権利を保有する『リトルプリンス』のライセンシング商品などで、髙島屋の催事での売り上げに貢献しました。

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高島屋のウィンドウの様子

愛知県豊田市とのタイアップも実現しました。豊田市は現在、映画館がありませんが駅前の商業施設や市の中央図書館、ラッピングバスなどにおいて、『リトルプリンス』の世界観をそのままに、市民が見て触れられる施設を生かして豊田市自ら積極的に盛り上げていただきました。映画館のない街なので、一見ワーナーのメリットはなさそうですが、映画界にとって良い事業ですし、作品の「大切なものを見つけに行く」というメッセージにも近いので実施しました。

集英社との取り組みでは、絵本・児童文庫・漫画の3本立てでタイアップ。特にマンガでは、星の王子さまを知らない子どもたちへのタッチポイントを増やすために、公開前にもかかわらず、少女漫画誌『りぼん』で映画全体を49ページの特大読み切りでコミカライズ(結末は言わない)し、映画を見てもらうきっかけづくりを行いました。この映画自体が当初は20~30代の女性をターゲットにしていたのですが、ファミリー層及び原作ファンの年配層にも支持を得ることができました。

「映画はお客様に届いてなんぼ」

Q.ワーナーと組みたいと思ったら、どうしたらよいのでしょうか。

小杉)企業側には普段持っていないコンテンツを使って集客できたり、販路を開拓できたりするので、組むメリットはあると思います。ただ、映画とのタイアップやコラボレーションが成功するためには、さまざまな障壁もあります。もちろん我々の映画が魅力的であることが第一ですが、大変なことを共有し、お互いの手の内を見せて一緒にタイアップを作り上げる気持ちがあれば、最初は実現不可能なことに感じたことでも、実現できると思います。ワーナーと組みたいと思ってくださる企業は、いつでも扉全開でお待ちしております。(笑)

今はテレビドラマを映画化しただけでは簡単には成功しません。一方で伝統芸能の歌舞伎が少年漫画『ワンピース』とタイアップする時代なので、映画ももっとチャレンジするべきなのではないでしょうか。映画はほかの芸術に比べてもっとも大衆的な娯楽の1つなので、誰に届けるかで映画の作り方も変わってきます。映画は作って終わりではなく、お客様に届いてなんぼでしょう。お客様に届けるための工夫をこれからも挑戦していきたいですね。

『るろうに剣心』などで実績を作り、本国を動かしタイアップ・コラボレーションの領域を拡大するワーナー。『リトルプリンス』では製作者や権利者の懐に入り込み、これまでだと考えられなかった高次元なレベルの施策を次々に仕掛けている。小杉氏が強調したのは、映画の作り手や届ける側が、ただ自分たちの作りたいものを作るのではなく、どのような人たちに見てもらいたいのか映画の届く先を考えられるようになることが重要だということ。そのためには企業とのタイアップやコラボレーションも重要な施策の一つだ。企業側も映画のコンテンツを利用するだけでなく、その世界観を共に作り上げられるような信頼関係を築けるようになること。両者の歯車が噛み合ったとき、映画タイアップ・コラボレーションの可能性はさらに広がるのかもしれない。

コラボレーション先に聞きました!

髙島屋で『リトルプリンス』のタイアップ・コラボレーションを担当した鳥海俊秀氏

『リトルプリンス』はかけがえのない大切なことをたくさん教えてくれるストーリーで、タカシマヤクリスマスのコンセプト「人を愛すること」「夢を信じること」と合致するものでした。またターゲットという観点では、『リトルプリンス』のメインターゲット(20代~30代女性)がタカシマヤのクリスマス商戦上ぜひ取り込みたい層ですし、原作の主要ファン層(40代以上女性)は、タカシマヤの主要顧客層でもあります。もちろん、『リトルプリンス』のサブターゲットがファミリーであることは百貨店としては必須条件です。映画公開に合わせてプロモーションを実施することで、相互送客が期待できると同時にビジュアル連動を図ることで店内を"劇場型プロモーション"に変化させることができることもまた、当社の狙いです。実際に『リトルプリンス』との施策でご来店されたお客様は、若い女性が非常に多かったですね。特に、平日夕方5時以降は「会社帰り」のOLが多く、通常の展覧会にはない動きが見られました。一方、土日祝は母娘の来店が多かったのも特徴。展覧会での入場客数は連日3,000名を超え、滞留時間も長く丁寧に展示物をご覧になる方がほとんどです。『星の王子さま』の人気の高さを改めて実感しました。映画とのタイアップ・コラボレーションについては、コンセプト・タイミングなどが合えば展開をしたいと考えています。しかしながら、確実に相互がメリットを享受するためには、早い時期から時間をかけて、しっかりと組み立てていくことが重要だと思います。

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高島屋の店内展示の様子

豊田市とリトルプリンスのシティタイアップを企画した、クリティカ・ユニバーサルの四戸俊成氏

今回、愛知県豊田市という"市"そのものと、"映画"を結ぶシティタイアップを組み立てるにあたり、「性別、年齢、人種を問わず、市に住む方や訪れる方から広く愛される取り組みにしたい」という思いのもとに、全世界で聖書の次に多くの出版数をもつ『星の王子さま』を原作にもつ『リトルプリンス』とコラボレーションする運びとなりました。この取り組みは、2017年冬、豊田にシネマコンプレックスが開業するプレイベントとして、豊田で映画文化を楽しんでいただく土壌をつくるという目的からスタートしました。古くは紡績業から発展した歴史をもつ豊田ならではともいえる、『Toyota City Montage"ものがたり"をつむぐ街』というコンセプトのもと、街中の施設や広場で作品が織りなす世界観やメッセージを味わえるような仕掛けを展開しています。メッセージ性が高い作品だからこそ、かつて本を読んだことのある方には"忘れていた気持ち"を思い出していただき、初めて作品に触れる方には映画のきれいでかわいらしい世界観を体験していただきました。この取り組みによって、ユーモラスな取り組みとして"市"を発信できることはもちろん、お越しいただく機会にもなりますし、街や施設を日々訪れる方々が"映画"に興味をもっていただけるなど、双方にとって、新たな層の方々に"好きになってもらう"ためのきっかけができたと思います。持論となりますが、コラボレーションやタイアップで重要なのは「何を届けたいか」ということ。作品の絵柄だけを切って貼ったようなものではなく、なぜその街や施設とその作品が結びついたのか、コラボレーションで何を届けたいのかをいかに考えられるかが大切になってくるのではないかと感じています。

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豊田市の広場に設置された、体験型スノードーム

(取材:マンゴク・ハセガワ)

この記事を書いた人

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Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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