ガリガリ君はなぜ愛されるのか ~値上げコミュニケーションに見る、赤城乳業イズム~

週刊?!イザワの目

2016/04/21週刊?!イザワの目

4月1日、赤城乳業はガリガリ君をはじめとするアイス商品を値上げした。ガリガリ君の値上げは、1981年の発売以来2回目で25年ぶり。60円を70円にした。通常、「値上げ」に関するニュースは、生活者にダメージを与えるとして批判的に受け取られがちで、企業や商品のイメージダウンにつながる可能性もある。しかし、ガリガリ君の値上げに関するネガティブな報道は「ゼロ」。生活者も「9割」が受容したという。赤城乳業の「値上げコミュニケーション」はなぜうまくいったのだろう。その背景を取材し、分析した。

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2つのうれしい誤算

赤城乳業の「値上げコミュニケーション」は、3月上旬のリリース発表に始まる。

商品企画から宣伝・広報までを一手に担う、同社の営業本部 マーケティング部長 萩原史雄さんによると、消費者の反応は半々と事前に予想していたが、フタを開けてみると9:1でポジティブだったという。ソーシャルメディアの書き込みや、お問い合わせ窓口には「25年間ありがとう」「今までよくがんばった」「値上げしても、買う」などの意見が多く寄せられた。ここまでの好意的なリアクションは想定外だった。

各社が値上げを発表する中、その代表例として、メディアの取材も殺到した。すべてフルオープンで対応した結果、批判的な記事を書いたメディアは一つもなかった。

消費者とメディアの反応、この2つの「うれしい誤算」で、リリース発表と共に準備を進めていた広告も「これなら」と、背中を押されたという。

エイプリルフールに「事実」を

広告が解禁されたのは、4月1日のエイプリルフール。世の中の企業が「ウソ」のネタや話題づくりに気合いを入れる中、赤城乳業は10円値上げの「事実」を伝えるために本気を出した。

日本経済新聞朝刊に全面広告を掲載すると共に、1日、2日限定で60秒CMを3回放映した。会長、社長を筆頭とする赤城乳業の社員、約120人が頭を下げるシンプルなビジュアルで、新聞広告には昭和のフォークシンガー故・高田渡さんの名曲『値上げ』の歌詞が書かれ、テレビCMではその曲が滔々と流れる、という内容だ。

この「事実」広告に、消費者はどよめいた。「今朝の日経にガリガリ君値上げを謝罪する全面広告が載ってて笑った。どう、この気合いの入りよう」「ここまでするの」「どうか、頭をお上げください」。広告を見た人の好意的なリアクションは、Twitterをはじめとするソーシャルメディアで広がり、ニュースとなって海を越え、中国やブラジル、イタリアのメディアでも報道された。

歌詞にすべてをゆだねた

制作を担当した電通のクリエーティブ・ディレクター 古川雅之さんは、「赤城乳業さんの持つ、正直かつ遊び心にあふれた"人柄"に寄り添って、10円の値上げを"チャーミング"に伝えられると思った」と話す。値上げを広告のテーマにするなら、と、以前からよく聞いていた、高田渡さんの『値上げ』がすぐに思い浮かんだという。

『値上げ』は1971年のニクソンショック後、日本のインフレ加速期にリリースされた曲で、値上げはしたくないが、せざるを得ない環境となり、悩み抜いたあげく、しかたなく踏み切るという内容だ。歌詞が「赤城乳業の気持ちとまさに合致していた」(萩原さん)こともあり、値上げに至った経緯や、これまでの企業努力や言い訳は広告に一切盛り込まず、「歌詞にすべてをゆだね、シンプルでユーモラスな表現にした」(古川さん)。

異端の経営、赤城乳業イズム

同CMを撮影するにあたり、会長、社長の経営陣はもちろん、できるだけ多くの社員が参加できる日程が組まれた。同社の2つの工場で働く社員も参加するため、両工場の稼働を数時間止めなければならなかったが、生産を止めてでも伝えるべきメッセージがここにある、と決断した。通常、CMの撮影では、監督から演技指導や演出のリクエストが入るが、この時の撮影では、ほぼなし。「カメラの向こうのお客さまに気持ちが伝わると思うので、カメラをまっすぐ見てください」と伝えた結果、自然とあの表情になったという。同時に新聞広告用として、頭を下げたままのシーンも撮影された。

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▲カメラをまっすぐ見つめた結果、社員一同この表情。お客さまへの気持ちを込めた。

「申し訳ありませんと、ありがとうございます。この二つの気持ちを込めた」と萩原さん。社員の思いを伝えつつ、「くすっと笑える広告」をつくろうとしていたが、結果的には赤城乳業の真摯さや正直さも伝わる仕上がりとなり、消費者からの反応は「感動した」から「面白い」まで、感情の幅は多岐にわたった。

「会社のトップが出る新聞広告なのに、写っているのは顔じゃなくて頭だけ。普通の企業ならOK出さないですよね」と古川さん。これに対し、「あの広告見ると、当社の頭薄い率がわかるんですよ、11%です(笑)」と萩原さん。まるで、小学生のガリガリ君が言いそうなことをスッと口にする。この豪胆さとお茶目さがなければ、ガリガリ君らしいコミュニケーションはできないのだろう。自らを"異端の経営"と呼ぶ、赤城乳業イズムを感じた。

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▲4月1日の日本経済新聞朝刊に掲載された、赤城乳業「ガリガリ君」の値上げ広告。同社の会長、社長をはじめ、全員頭を下げているため、顔は見えない。萩原さん曰く、頭薄い率は11%。

赤城乳業が受け入れられたワケ

今回、赤城乳業が行ったのは、リリース発表と広告制作。企業が世の中に情報を伝える際に使う、最もシンプルで代表的な2つだ。どこの企業でも行っている手法をとっただけにもかかわらず、なぜこんなにも大きな話題となり、世の中に値上げが受容されたのだろう。取材を通して、2つの理由が浮かび上がった。

一つ目は、広報(リリース発表)と宣伝(広告)のそれぞれが、互いの任務を潔く、全うしたことではないだろうか。リリース発表後、どんな取材も"潔く"すべて受けたことで、値上げの背景や踏み切るまでの経緯が細かに、そして多角的に報道された。テレビの情報番組から、新聞、週刊誌そして夕刊紙、ネットニュースに至るまで、さまざまなメディアで報道されたことにより、まさに老若男女に、値上げにまつわる「ストーリー」が広まり、理解の土壌ができた。

そこにきて、"あの"広告の登場。広告では逆に、一切、その背景や経緯は説明せず、10円値上げの事実のみを伝えた。真摯にお辞儀をするだけの"潔い"クリエーティブは、逆に強いメッセージとなり、見る人の心に残った。

広告を見た人が、誰かに話したくなったり、さらに知りたくなって調べた時に、その背景がわかる情報がニュースとしてすでに世の中に出ているという、まさに広報と宣伝が連携し合う、理想の形ができていたのだ。

二つ目は、ガリガリ君に代表される、赤城乳業のブランド力がなせる業だろう。奇抜なナポリタン味を、自信を持って発売する"チャレンジ精神"や"遊び心"、それが大赤字の失敗に終わっても隠そうとしない"正直さ"や"潔さ"。それらの企業風土を、赤城乳業らしさという、ある種の"人格"にまで昇華させていることが、消費者の応援したくなる気持ちのベースとなっていることは間違いない。さらに言うなら、その自社のブランド力を過信も過小評価もせず、的確に把握し、世の中の流れや時代の気分と上手にマッチングさせた、ということではないだろうか。

「値上げコミュニケーション」効果だけでなく、商品力や流通力ともあいまって、値上げ以降の売り上げは順調に推移し、現在、70円のガリガリ君ソーダは、前年比150%以上となっている。

ブランドは企業活動の積み重ね

萩原さんは言う。「私たちは、自分たちの手でできることを地道に継続しているだけです。ただ、自分たちが面白い、やりたいと思ったことは、とことん大切にしています。それをお客さまに届けたい、という気持ちは誰よりも強いです」

誠実に、できることを一生懸命。でも遊び心は忘れない。多数決で決めるような、角がとれて丸くなったアイデアではなく、一人ひとりが面白いと思った素直な気持ちを大切にする。一見簡単そうだが、企業としてその姿勢を貫き続けるのは並大抵のことではない。その地道な努力が、今回の値上げの受容につながったのだろう。ブランドは企業活動の積み重ねであり、一朝一夕で生まれるものではない。それを改めて教えてくれた。ガリガリ君、ありがとう、これからも頑張って。

Report=Yumi Izawa, Saori Takeuchi

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■プロフィール


20160421_digitalboard_04.jpg萩原史雄(はぎわら・ふみお)さん

赤城乳業株式会社 営業本部 マーケティング部 部長

1995年、赤城乳業株式会社に入社。営業部を経て、2004年から営業統括部へ(現マーケティング部)。「ガリガリ君」のブランドマネージャーと共に、「ガツン、とみかん」「BLACK」など、各ブランド全般にわたるコミュニケーションの現場責任者。


20160421_digitalboard_05.jpg古川雅之(ふるかわ・まさゆき)さん

電通関西支社 マーケティング・クリエーティブセンター 部長/本社CDC兼務

クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー/コピーライター

1969年生まれ。 グラフィックプロダクション、広告代理店を経て1999年に電通に。主な仕事は、「大日本除虫菊」(キンチョール/虫コナーズ/ゴンゴン/サンポール/コバエがポットン)、「赤城乳業」(BLACK/ガツン、とみかん/アイスパフェ/ガリガリ君)、「梅の花」(歌シリーズ)、「日清紡」(ドッグシアター)、「朝、ゴミを出す」「風呂掃除」「窓を拭く」など。

この記事を書いた人

週刊?!イザワの目
Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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