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【カンヌライオンズ2016】 PRは「アイデア」と「リザルト」の強いコネクションが鍵に ~PR部門・審査委員の橋田氏に電通PR・根本が現地で突撃!~

週刊?!イザワの目

2016/06/28週刊?!イザワの目

開催63回目を迎えた「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」が、6月18日〜25日に行われた。今回のPR LIONS(PR部門)では全42のサブカテゴリに、昨年の1,969作品を上回る2,224作品のエントリーがあり、ロングショートリストには約260作品、ショートリストには約240作品が選出された。ショートリストのうち84作品がWinnerとなり、最終的には20作品がゴールド以上を獲得した。グランプリに輝いたのは、スウェーデンのスーパーマーケットチェーン・Coopの「The Organic Effect」だった。

現地では、電通PRのPRプランナー根本陽平が、PR部門の審査員を務めた博報堂ケトルの橋田和明氏に話を聞いた。本特集ではその内容をもとに、「カンヌにおいてPRに求められていること」が何なのかを探っていきたい。

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PR部門の審査員を務めた博報堂ケトルの橋田和明氏(右)と、電通PRのPRプランナー根本陽平

根本:今年のPR LIONSの審査員の顔ぶれはいかがでしたか?

橋田:PRの審査員は、審査員長を含めて21人で構成されています。男性が6人、女性が15人です。審査員長であるエデルマンのジョン・クリントン氏を筆頭に、ヨーロッパ、南米などからPRエージェンシー中心に集まりました。アジア・パシフィック地域からは日本の僕と、オグルヴィPRのアジア・パシフィックのCEOの2名です。オグルヴィPRは世界のPR 業界の中でも非常に伸びていて、それはアドエージェンシーとPRエージェンシーの連携がうまくいっているからだと思うので、その彼が審査員として来たのは個人的に面白かったです。

根本:PR会社以外の審査員は何人いましたか?

橋田:約1~2割がPR会社以外を標榜している会社の人だと思いますが、基本の軸足はPR業界にある人がほとんどです。コミュニケーション・エージェンシーを名乗る人もいました。

クライテリア(審査基準)は「アイデア」と「リザルト」の強いコネクション

根本:どんな軸で作品を見ていきましたか? クライテリア(審査基準)は何だったのでしょうか?

橋田:今までのカンヌでも言われていた「パブリシティ」というベースと、それによって達成される「パーセプションチェンジ(意識変化)」「ビヘイビアーチェンジ(態度変容)」は、審査員の中ではどちらかというと"当たり前の共通基準"になっていました。その上で、審査員長のジョンは、「今まで見たことのない、サプライジングなアイデアをきっちり見極めよう」と繰り返し言っていました。なので、過去作品に似ていると思った瞬間に、評価が下がることもありました。グランプリを取った「The Organic Effect」のように、アイデアとリザルトのリンクがすごくきれいだったり、強いコネクションを持っていたりするものが評価されましたね。ここで言う「リザルト」は(広告換算値やSNSなどの)インプレッションよりも、セールスにどれだけ影響を与えたかや、目標にしていたゴールに対しての結果がはっきりしているか、が重視されました。これは、よくケースフィルムで●●impressionsとかとんでもない数字がでてきているのですが、"インプレッションとは何か?"ということが議論され、"ではPRは何をリザルトとして持つのか"を考えた結果だと思います。

根本:つまり根源的なパブリックリレーションズに近づいたということですか?

橋田:そうですね、審査員たちのいわゆる"広告嫌い"はすごく出ていました。PR視点で広告(特にTVCM)が作られれば、それはPRだと判断できるのではないか、という意見も出て議論されましたが、最終的にはやはりそういうエントリーは削られていきました。本当は僕も、バーガーキングの「McWhopper」やハイネケンの「Brewtroleum」は、PRだと思うんです。「Brewtroleum」は個人的には好きな作品で、ビールのカスからバイオ燃料を作ることで社会貢献して、"地球を守る"というビールを飲む新しい言い訳を作るコミュニケーションをしていました。けれど、ケースフィルムの中でもTVCMがドンっと出ていたので、それを見た瞬間に審査員みんなのトーンが一気に下がるというシーンがありました。でもその結果、PROMO&ACTIVATIONやDIRECTは受賞作品が同じようなものになっていたと思いますが、PRはオリジナルに作品を選ぶことができたのではないかと思います。Paidではなく、Earnedをちゃんと重視する、純PRとしてのゴールドが集まったということですね。

根本:審査にはすごく時間がかかりそうですね。

橋田:ゴールド以上を決めるのには時間がかかりました。通常、カンヌライオンズは、サブカテゴリごとにゴールド・シルバー・ブロンズを決めていくことが多いです。でも、そうするとゴールドが出すぎてしまったり、前半の方がゴールドを取りやすかったりしてしまいます。その点、今回は、全サブカテゴリを先に通して見て、ブロンズ以上かどうかをチェックしました。作品に対する理解がしっかりできたし、メダルの色の付け方が、フェアだなと僕は思いました。

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シンプルな課題に対して「サプライジングなアイデア」を

根本:議論が白熱したものはありましたか?

橋田:ゴールドとグランプリを決めるときは深夜まで議論を重ねていました。グランプリ候補は3つに絞られて、グランプリだった「The Organic Effect」のほか、「Bees Can Find Sugar Where You Least Suspect It」(チェコの食料品チェーン「NAS GRUNT」)と「The House Of Clicks」(スウェーデンの不動産サイト「HEMNET」)が残りました。実は、僕は「Bees Can Find Sugar〜」推しだったんです。なぜならそこにはクリエイティビティをすごく感じたから。このアイデアにもう少し予算があれば、さらに広がると感じました。砂糖を可視化するキャンペーンは、他にもたくさんエントリーされていましたが、そのなかで「Bees Can Find Sugar〜」は、ハンバーガーをミキサーで砕いて、それを蜂に与えるとハチミツができるというアイデアの新鮮さが大きかったです。この驚きって、メディアにプロモートのしがいがありますよね。リリース書きたい気持ちになります(笑)。 でもこのエントリーは、まだ「砂糖がこんなに入っているよ」というアウェアネスだけで終わってしまい、行動を起こすというビヘイビアーチェンジの結果が出にくいという課題がありました。

一方「The Organic Effect」は、オーガニック商品に対するパーセプションを変えて、セールスにダイレクトに影響した仕事。アイデアとリザルトとのコネクションがはっきりしていました。これはまずは発見がクリエイティブ。有機食品だけで2週間過ごすと、体の中から殺虫剤が消える、という驚きの事実を発見した。そして、そこを普通のPRだとすぐリリースの形をとっちゃうのですが、1本のフィルムにした。そのドキュメンタリーの作り方もうまく、子どもが尿を持ってくるところのかわいさや、「こんな殺虫剤食べてたんだ...」というセリフなど、そこにもしっかりとクラフトがありました。

クリエイティビティで考えると「Bees Can Find Sugar〜」の方が上だと思いますが、PRということで考えたときに、最後の投票では「The Organic Effect」が多数を占めてグランプリに選ばれて、その結果には僕も納得しています。PRというものの輪郭をはっきりすることができた、すごくいい結果だと思います。

根本:日本の作品に対する審査はどうでしたか?

橋田:世界の審査員からは「日本のこれはいったい何なの?」と、よく聞かれました。日本が抱える課題や背景、文化が特殊で理解まで時間がかかるというのは否めません。例えば、日産の「#猫バンバン」(寒くなると街の猫たちが自動車のエンジンルームやタイヤの間に入ってしまうことがあるため、乗車前にボンネットを叩いて事故を未然に防ごう、という日産自動車のプロジェクト)を挙げると、「カナダは日本より寒いけど、猫は外歩かないし、ボンネットに入ったりしないよ」となってしまうわけです。僕が補足説明して理解してもらえる部分もありますが、なかなか腑に落ちない。一方、コロンビアのエントリーは、「狭い都市で貧困」という非常にシンプルな課題です。すると、多くの説明なくしても感覚的に納得してもらいやすいのです。日本は課題が高度すぎましたね。もちろんビヘイビアーチェンジを起こしている作品はありましたが、入り口となるそもそもの課題が審査員に納得されないと意味がわからなくなってしまう、という壁があったと思います。

根本:日本では2作品がブロンズを受賞しましたが、ポイントは何だったのでしょうか?

橋田:日清食品の「10分どん兵衛(10 Minutes Noodle)」は、やはり強いアイデアとリザルトとのコネクションがあったことがポイントでした。カップ麺は、発売から約50年、3分や5分という企業が決めた調理時間で食べ続けられてきました。そこへ、10分で食べるとおいしいというインフルエンサー(っていうかマキタスポーツさん)の発言を受けて、10分という調理時間を公式に認めるという歴史的なチェンジを行ったと思うのです。このキャンペーンは僕も大好きで、本当にPRらしいと思います。リザルトの数字に加えて、たしかにこのアイデアなら売れる気がする、というリンケージはとても大事です。

トヨタの「Open Road Project」は、コミュニティーが主導するカースペース発見・共有プロジェクトをWEBプラットフォームを活用して運営しているというポイントにおいて、WEBプラットフォームというサブカテゴリーへのマッチングがよく、評価されていました。

社会実験系など、前年の進化版が続々

根本:昨年はソーシャルグッドなものが多かったと思います。今年のエントリーの傾向を教えてください。

橋田:昨年のカンヌPR部門のグランプリ「#LikeAGIRL」のおかげで、ソーシャルエクスペリメント(社会実験)系のエントリーが増えましたね。前年のカンヌのトレースは本当に多い。それと「絵文字」というソリューションを使ったものも多かったです。そして砂糖問題ですね。

根本:プロモなど他の部門の審査員からは、「ビッグなクライアントで、ビッグなアイデアで、ビッグなリザルト」が評価されたと言っていましたが、PRではどうでしたか?

橋田:大小は関係ない、というのがPRだったと思います。しかし、少し広告で有名なクライアントは敬遠されていたような気もしました。というのも、これは広告産業とPR産業の闘いでもあったと思うのですが、例えばバーガーキングの「Who Is The King」はPR視点で見ても、僕はかなり高く評価されてもよい作品だと思っていました。でも今回のPRの審査員陣からすれば、"アドVS.アド"をPRした作品でしかないと見えてしまったんだと思います。

根本:今回のPR LIONSを一言で総括すると、いかがですか?

橋田:今年は、さらにPR部門の輪郭をはっきりさせた年だと思います。PRの本質は手法ではなく考え方にあると思うのですが、そうするとあれもこれもPRになってしまう。そこをあえて、手法はPaidではなく、Earnedにこだわるこの姿勢が、PRの輪郭をはっきりさせていくのだと思います。こう区切ったからこそ、Earnedされることにもっともっと真剣になれる気がするので、PRとしてのアイデアをもっと深く、強くすることができるのではないかと思います。

根本:最後に、PR業界の人に向けたメッセージをお願いします。

橋田:リリースという手段から一歩踏み出す。これが、PR業界が今年カンヌから学ぶことだと思いました。いろいろなやり方が考えられますが、僕は動画をリリースと考えてみる、ということもあると思います。CMプランナーやCMプロダクションなどの動画をつくれる人間とどんどん協業していくのも良いのでは、と感じました。ぜひ、一緒に日本のPRの新しい手口を発見して、世界と戦いましょう。

根本:橋田さん、ありがとうございました!

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今年のカンヌのPR部門において求められたことは、根源的なパブリックリレーションズの持つ役割だった。強いアイデアでビヘイビアーチェンジを起こし、その先にセールス増加や行動喚起がリザルトとしてしっかり存在していることが重要視されたのである。どれだけインプレッションを取れたかだけでなく、実際に人が動いたかどうか。リザルトが曖昧であれば躊躇なく落とされる。

今回の審査基準や結果を見つめなおすことは、"PR業界の未来を形づくる"ことに大いにつながる。これから先、PRパーソンが解決していくべき本当の課題に対してしっかり向き合っていきたい。

Report by Kenta Arai, Yusuke Matsuo

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今年のPR部門注目作品紹介

グランプリ:「The Organic Effect」

長い間有機栽培農家の支援をしてきた、スウェーデンのスーパーマーケットチェーン「Coop」が仕掛けた、有機食品に対する意識を変えるための施策。ある普通の家庭で有機食品だけで2週間生活をしてもらい、その様子をドキュメンタリービデオとしてYouTubeとFacebookで公開した。有機食品での生活を始めて2週間後、尿からは農薬が検出されなくなったというファクトを提示したビデオは3500万回視聴され、、Coopは過去20年で最高のセールスを記録した。同エントリーを手がけたエージェンシー、FORSMAN & BODENFORS Gothenburgは、Cannes Lions 2014において、「The Epic Split」でFILM部門のグランプリを受賞している。

クライアント:COOP

エージェンシー:FORSMAN & BODENFORS Gothenburg

ゴールド:「Bees Can Find Sugar Where You Least Suspect It」

チェコでは、84万人が糖尿病を患っている。その理由のひとつとして、加工食品に含まれる砂糖の量を把握していないことがある。そこで食料品チェーンのNAS GRUNTは、砂糖の可視化のために、15%以上の砂糖が含まれているものからハチミツを作ることができる蜂の習性を利用した。ハンバーガーなどの加工食品をミキサーですり潰して蜂に与えることで、加工食品からハチミツを作って啓発したのである。

クライアント:NAS GRUNT

エージェンシー:McCANN ERICKSON PRAGUE

ゴールド:「The House Of Clicks」

スウェーデンの人口の20%にあたる200万人以上が毎月利用する不動産サイト「HEMNET」の作品。200万人による総計2億クリックものビッグデータを分析し、ヨーロッパの有名な建築デザイナー2人と協力して、スウェーデン人が望む"理想の家"を設計した。この理想の家は設計だけにとどまらず、近いうちに販売が予定されているそうだ。

クライアント:HEMNET

エージェンシー:PRIME Stockholm

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【プロフィール】

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橋田和明-Kazuaki Hashida-

クリエイティブディレクター/PRディレクター

2002年博報堂入社。ストラテジックプランナーとしてコーポレートブランディングや商品開発などを担当。2006年博報堂ケトル設立とともに同社に。戦略からCM、インタラクティブ、PR、イベントなどをインテグレートするクリエイティブディレクター。12のカンヌライオンズ、4つのアドフェストグランプリを含め、国内外で多数の賞を受賞。2015年の東京ADC賞、2016年のクリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト受賞。

SPIKES ASIA 2015のPROMO&DIRECT審査員、Cannes Lions 2016 PR LIONS審査員。

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根本陽平-Yohei Nemoto-

PRプランナー

2008年、電通パブリックリレーションズ入社。現在は、電通PRプランニングセンターに所属。グループ横断・動画専門チーム「鬼ムービー」にも参画。徹底したPR視点からのプロモーションプランニングを手掛ける。PRをテーマに企業や成蹊大学や立教大学、CNET Japan Live等で講義。主なメディア掲載に、朝日新聞「ひと」、ブレーン「今一緒に仕事をしたいU35クリエイター」選出、など。Global SABRE Awards(「世界のPRプロジェクト50選」)、WOMMY AWARD、PRWeek Awards Asia、Adfest、日本PRアワードグランプリなどで受賞。

この記事を書いた人

週刊?!イザワの目
Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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