受賞のカギは「つなげる力」 SPIKES ASIA 2015 PR部門審査員・本田哲也氏インタビュー

週刊?!イザワの目

2015/10/08週刊?!イザワの目

第7回を迎えたアジア太平洋地域のクリエイティビティ・フェスティバル「スパイクス・アジア」が2015年9月9日から11日の3日間にわたってシンガポールで開催された。ブランデッドコンテンツ&エンターテインメント、フィルム部門など全18部門に、アジア・パシフィック地域の23カ国から4351点の応募作品が集まった。本特集では、18部門のうちPR部門に着目し、どんな作品がどんな視点で審査されたのか、今年、PR部門の審査員を務めた本田哲也氏(ブルーカレント・ジャパン)に聞いた。

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「つなげる力」を重視

Q. PR部門はどのような作品が集まったのでしょうか。

本田氏、以下、本田)ジェンダーイシューについてのエントリーが多かったですね。「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」で今年から新設された、性差別や偏見を打ち破るクリエイティブを讃える賞「グラスライオンズ」などを意識している部分もあるかと思いますが、PR領域でもジェンダーイシューをテーマにしている作品が増えました。印象に残っている国でいえば、インドとオーストラリア。カンヌでもアジア勢として強い印象があるので、やっぱり特別なクリエイティビティを持っている国だと感じました。

PR部門のエントリー数は249作品で、まずその中から47作品をショートリストに選びました。各々の審査員によるプレジャッジの後、現地審査で全作品を見なおして投票し、得点の高いものを並べて47作品が選ばれました。結果としてインド、オーストラリア、ニュージーランドの作品が多く残りましたね。日本からのエントリーでショートリストに残った作品は4つ。他の国と比較すると割合的に少し少なかったかなという印象です。

Q. どんなクライテリア(審査基準)で審査されたのですか?

本田)審査の過程で最も熱いディスカッションテーマとなったのが、「PRにおけるクリエイティビティとは何か」ということです。フィルムやプリント部門などの他のカテゴリーにおけるクリエイティビティとPR部門のクリエイティビティとでは相違点があるのではないか、という投げかけから、徹底的に話し合いました。

PRのクリエイティビティは「楽しい」とか「かっこいい」という感情をつくりだすだけではない、というのが審査員の一致した意見だったのですが、最終的には、PRのクリエイティブアイデアとは、いろんなものをつなげていく「コネクティビティ」の力だという結論になりました。すばらしいクリエイティブアイデアは、お金の力などなくても広がり、マスメディアをつなげることに限らず、NPOやNGO、専門家など、多くのステークホルダーを「つなげる力」がありますよね。

Q. どんなメンバーが審査員だったのでしょうか?

本田)審査員は8人で、うち6人が女性。女性比率が高かったですね。審査員全員がPRエージェンシー出身で、15年から20年の経験を持っていました。

ちなみに、アメリカの大手PR会社は従業員の7割が女性ですし、TOP10のPR会社のエグゼクティブ(役員)の3割が女性。PR業界は女性の成功者が多いですね。

審査の段階でも、少なからず女性目線というのは影響していると思います。もちろんフェアに審査をしていますが、男性目線の企画や、テクノロジーやゲームのようなユーザーが限られる施策はあまりピンとこない部分があるかもしれません。

テクノロジー"だけ"じゃダメ

Q. グランプリはどんな点が評価されたのですか?

本田)グランプリはサムスンの「LOOK AT ME」。自閉症児が苦手とする、目線を合わせるという行為を学習することができるというモバイルアプリです。

評価されたポイントは2点。一つ目は、施策がグローバルで広がっていったこと。施策の結果をトラックすると世界中でこのアプリが使われていました。韓国とカナダでローンチされるやいなや教育カテゴリーで1位、その後イギリス、アメリカ、ブラジルでも5位以内に入っています。

二つ目は、新しいテクノロジーの使い方が良かったという点です。応募のうち半数以上は、新しいテクノロジーを使った作品だったのですが、ただ使っているという印象のものが多かったです。一方、サムスンは、その技術が消費者の問題解決に直結している点がとても良かった。このアプリが、メディアだけでなく研究者や医者や患者などにも広がり、世界中をつなげていったことが評価されました。

Q.グランプリ以外で印象に残った作品はありますか?

本田)シンガポールの航空会社「SCOOT」のエントリーですね。イシューマネジメント・カテゴリーの作品です。

ライバル会社に自社の広告デザインをまねされてしまうという状況をうまく利用し、まねするのであればもっとしっかりとまねしてほしいという社長メッセージを発信したり、ライバル会社にデザイン制作キットを送りつけるといった企画です。イシューマネジメント・クライシスコミュニケーション部門の活性化という点でも必要な事例なのではないか、という意味合いも込めて、シルバーを授賞しました。

個人的に面白いと感じたのは、ブロンズを獲得した、インドのP&Gが実施した洗濯洗剤アリエールの「SHARE THE LOAD」という作品です。男性が洗濯を手伝わないという課題解決のために、アパレルメーカーと協業して、洋服のタグに「男女両方洗濯できます」というアイコンとメッセージを付けたり、随所にユーモアとクリエイティビティがありました。結果として15万人以上の男性に、洗濯を手伝うことを宣言させたという成果を出しました。ブランド好意度も向上し、売り上げにも結びついたので、マーケティングPR・戦略PR視点で、面白いと感じました。

グローバルインサイトが基本

Q. 来年に向けて、アドバイスをお願いします。

本田)PR部門にエントリーする必然性や理由が強まってきている印象がありますね。なんとなくPRっぽいからPR部門にエントリーしようという意識ではなく、その施策がコネクティビティ(つながり)を生んだかどうかを意識しなければいけません。エントリーシートやビデオもコネクティビティに対してどれだけ影響を与えたかを見せることが大切になってくると思います。

あとは、日本独自のローカルインサイトの説明は、このような世界のアワードでは難しいですね。「本当に日本ってそうなの?」と他国の審査員から質問があったように、日本独自の課題を解決した施策を理解してもらうのは難しいです。グローバルインサイトに目を向け、それを日本的な面白さで解決するということにチャンスがあるような気がします。もし、日本独特のインサイトでいくのであれば、提出資料にはきちんと説明を入れたほうがいいですね。あと、エントリービデオは経営層クラスの40~50代の女性審査員が見ているということをお忘れなく!(笑)

(聞き手:タニモト・アジカタ)

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■プロフィール

本田哲也(ほんだ・てつや)

ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長/CEO

1970年生まれ。戦略PRプランナー。 米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された日本を代表するPR専門家。

2009年に「戦略PR」(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。2014年7月に刊行した「広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。」(LINE株式会社 上級執行役員 田端信太郎氏との共著)は発売2ヶ月で5万部を超えるベストセラーに。

2015年より公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)マーケティング委員。アドテックトーキョー、カンヌライオンズ2015公式スピーカー。スパイクスアジア2015 PR部門審査員。世界的なアワード『PRWeek Awards 2015』にて「PR Professional of the Year」を受賞。

国内外の大手顧客に、戦略PRの実績多数。戦略PR/マーケティング関連の著作、講演実績多数。

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【スパイクス・アジア2015 PR部門 注目の作品】

◆LOOK AT ME(グランプリ)

クライアント:SAMSUNG ELECTRONICS

エージェンシー:CHEIL WORLDWIDE, Seoul

応募国:SOUTH KOREA

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Spikes Asia

自閉症の子どもたちは他者とアイコンタクトをとろうとしないが、デジタルデバイスには興味を示すという研究結果からサムスンは、専門医やアプリ開発者などと協業し、自閉症の子どもたち向けのインタラクティブカメラアプリを開発。アプリを通じて、家族や他者とのアイコンタクトをとれる仕組みを提供した。その結果、被験者の60%でアイコンタクトが改善し、40%で感情表現にまで改善がみられた。

<評価のポイント>

さまざまな立場の人々をコネクトし、動かし、世界中で結果を出したアイデアが大きく評価された。(本田)

◆DON'T TRADE ME(GOLD)

クライアント:PAW JUSTICE

エージェンシー:DDB GROUP NEW ZEALAND, Auckland

応募国:NEW ZEALAND

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Spikes Asia

ニュージーランド最大のオークションサイト「trade me」上で実施されたキャンペーン。今までオークション上で動物の販売には何の規則も無く自由に取引が行われていたが、その倫理観に疑問を持った動物愛護団体のPAW JUSTICEは、一定の規則をサイト上に設けるための反対運動をtrade me上の広告枠を活用し「Don't trade me」キャンペーンを実施した。多くのメディアに報道され、結果としてtrade me上に新たに動物の売買に関する規則が設けられた。

<評価のポイント>

サービス名をうまく逆手にとったシンプルな逆転劇。デジタル上における広告もうまく活用していた。(本田)

◆LIVING MEMORIES(GOLD)

クライアント:BRAKE

エージェンシー:Y&R NZ, Wellington

応募国:NEW ZEALAND

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Spikes Asia

自動車ドライバーの教育や交通事故被害者をサポートするチャリティー団体であるBrakeが、全国交通安全週間の認知拡大を目的としたキャンペーンを実施。幼くして交通事故によって命を失った5人がもしも成長していたらどのような顔になっていたかという写真を作り上げ公開した。この写真は法医学に詳しい専門家の協力のもと制作された。24時間以内に多くのテレビやオンラインニュース上で取り上げられ、すぐに話題となった。

<評価のポイント>

恐怖訴求など硬派になりがちな社会課題解決。感情に訴えるクリエイティビティの発想が評価された。(本田)

◆INSPIREING SPIRIT(SILVER)

クライアント:SCOOT

エージェンシー:SAATCHI & SAATCHI, Singapore

応募国:SINGAPORE

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Spikes Asia

航空会社のScootは、ライバル会社のSpirit Airlinesに自分たちのブランドのロゴや広告表現をまねされた。それに対し、訴えることで対策をとるのではなく、その状況をうまく利用し、ライバル会社の社長に直接ビデオメッセージを送ることや、正しくまねることができるようにという皮肉を込めたデザイン制作キットを送った。その結果、アジア圏にとどまらずアメリカのCNNなど大手メディアを含む、世界中の100を超えるメディアにその出来事が取り上げられ、大きな認知を獲得するキャンペーンとなった。

<評価のポイント>

昨年は該当作品なしの、イシューマネジメント・カテゴリーで受賞。痛快なアイデアと、同カテゴリーのひとつの指針となるべきとの評価。(本田)

◆TALKABLE VEGETABLES(BRONZE)

クライアント:HUG MART

エージェンシー:HAKUHODO, Tokyo

応募国:JAPAN

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Spikes Asia

日本では食品表示問題などが相次いで起こり、食品の安全性に対し多くの消費者が不安を抱いているという課題があった。そこで、北海道産の野菜を販売するHUG MARTは生産者の声を届け安全性を伝える仕組み「TalkableVegetable」を開発した。野菜に触れると生産者の思いや、野菜の特徴、オススメのレシピなどについて野菜が喋りだす。

<評価のポイント>

日本らしい遊び心の発想と、「生産者の声を消費者に伝える」というコネクティビティが評価された。(本田)

◆'LEAVE IT TO US' REQUEST SYSTEM(BRONZE)

クライアント:AIR NEW ZEALAND

エージェンシー:ASATSU-DK, Tokyo

応募国:JAPAN

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Spikes Asia

国際的に有給休暇率の低さで知られる日本。若いビジネスパーソンをターゲットにニュージーランドに来てほしいという願いから、日本人の休暇取得を手助けするFacebookアプリをオープン。Facebook友達の中から申請する上司を選び、希望休暇期間や上司のタイプを入力するだけで、思わず承認したくなる申請書が自動的に作成される仕組み。SNS上で拡散され、実際に前年同期比254%のチケット売り上げに貢献した。

<評価のポイント>

非常にインサイトフルな出発点。日本特有な事情に説明も必要だが、デジタルの特性を生かしきったキャンペーン設計が評価された。(本田)

◆HIDE 'N RIDE(BRONZE)

クライアント:HIRAKATA PARK

エージェンシー:HAKUHODO, Tokyo

応募国:JAPAN

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Spikes Asia

関西にあるアミューズメントパーク「ひらかたパーク」は、巨大なライバル会社たちに対抗するため少額な予算で新たなアトラクション"Hide'n Ride"を開発。その手法とは目隠しをして既存のアトラクションに搭乗するというシンプルなものだが、新しいスリルが体験できるということで大きな話題となった。

<評価のポイント>

PRらしい目の付けどころと、コストエフェクティブネス(費用対効果)。しっかり成果も出しているところが評価された。(本田)

この記事を書いた人

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Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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