社会問題こそ、オシャレで楽しく、カッコよく。世界を変える、小さな「パーティ」

週刊?!イザワの目

2016/02/25週刊?!イザワの目

世界で作られる食べ物のうち、どのくらいが捨てられてしまっているかご存知だろうか。答えは、全体の3分の1、約13億トンだ。日本でも、年間およそ642万トンが捨てられていると言われており、これは1年間の漁獲量(374万トン)を大きく上回るという(出典:フードロス・チャレンジ・プロジェクト WEBサイト)。まだ食べられるものが捨てられてしまうという「フードロス」は、今、世界が直面する深刻な課題の一つだ。

しかし、その解決のために具体的なアクションを起こしている人はどのくらいいるだろう。問題の重大さに気づいている人は、自分一人でどうにかできることでないと、途方に暮れてしまっているだろうし、多くの人にとっては他人事で、問題を意識すらしていないかもしれない。でも実は、一人一人にもできることがあるとしたらどうだろう。簡単で楽しく、しかもオシャレに。今、草の根的に広がりつつある、世界を救う"かも"しれない、小さな「パーティ」を取材した。

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自宅の「難破船」を救え!

2月6日、東京都千代田区のイベントスペースで、ある「パーティ」が開かれた。参加者は約40人。事前に準備された家庭で持て余しやすい食材を、シェフが色どり豊かなメニューに変えてゆく。「かぼちゃの白和え」「トマトとキノコのカニあんかけ」「いろいろ野菜とチキンのソテー」。自分では思いつかなかった組み合わせのアイデアに歓声が上がる。「おいしい!」「こんな使い方あるんだ!」「でもこの食材って、どうしてよく余っちゃうのかな...」参加者は、さまざまな感想を抱いていた。

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この「パーティ」は、「サルベージ・パーティ」と呼ばれている。2013年に誕生した。"サルベージ"とは、もともと「難破船を救い出す」という意味で、自宅の余り食材を「救い出す」という同取り組みの目的から名付けられた。家庭のフードロス削減が、世界のフードロス削減につながるとして、平井巧(ひらい さとし)さん(36歳)が発案した。

きっかけは、にんじん一本

かつて広告代理店に勤務していた平井さん。30歳でフリーのフードプロデューサーとして独立した。仕事上、食べ物を廃棄することがあっても、特に違和感を抱くことはなかったが、自宅で料理をする時は違ったという。生産者を知っているわけでもない、飢餓に苦しむ子どもたちの顔が浮かぶわけでもない、でも自宅では「にんじん一本を捨てるのに、モヤモヤした」という。

「もしかすると、同じモヤモヤを抱えている人が他にもいるのでは?」と思いつき、Facebookで友人に声をかけ、家で余っている食材を持ち寄って知り合いのシェフに料理してもらうパーティを開いた。自分の家では遅かれ早かれ捨てられる運命だった食べ物たちが、目の前で生き返っていった。それをみんなでおいしく楽しく食べると、モヤモヤが少し晴れる気がした。Facebookでこの集まりの様子をシェアすると、それがさらにシェアされたり、まねる人まで現れた。自分と同じようなモヤモヤを抱いている人がいる。その気づきが、「サルベージ・パーティ」の誕生につながった。

「かわいいね」で、いい

もちろん平井さんも、パーティににんじん一本持って来たところで、世界のフードロスが解決するとは思っていない。しかし、食に対する関心や意識が高い人たちだけが取り組むような、小難しい高尚な施策だけやっていては「意味がない」。平井さんが考える、フードロスに取り組んでほしい一番のターゲットは、「食に大きな関心がない人」なのだ。

「人の食への向き合い方は、ピラミッドでいうと三段階くらいあると僕は思っていて、一番下というか、もっとも広い層に働きかけたいと思ってるんです。具体的に言うと、買ったお弁当でも気にせず、何の銘柄のお米を食べているのかを意識してない人たちのことです。でもそれって、わりと大多数ですよね」。そういう人たちに「フードロスってなんだろう、と考えてもらうことの方が大事だと思った」という。

そのために心がけたのは、「カッコよさ」。情報発信源であるWEBサイトや、アイキャッチとなるロゴはデザイニッシュに。活動のコンセプトは「もてあましている食材に、最高のスポットライトを!」とし、社会問題をテーマに活動している団体が掲げるような、深刻さや生真面目さは、あえて払しょくした。

「そのエプロンかわいいね、から入ってくれていいんです」。参加してみたら、楽しくて、おいしくて、ちょっぴり誇らしい。誰もが気軽に参加したくなるような「気持ち」を刺激すること3年。立ち上げ当初は、30人募集のパーティでも10人集まればいい方だったが、今では30人の定員がおよそ1週間で埋まってしまう。パーティの開催にとどまらず、小学校への出前授業などの依頼もある。教科書で学ぶフードロス問題を児童たちが実感できるとして好評だ。サルベージ・パーティの輪は、着実に広がりを見せている。

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正解は、あえて言わない

フードロスについて考えてもらうため、本当は、サルベージ・パーティでも「たくさん伝えたいことがある」という平井さんだが、「正解は、あえて言わない」ことを心がけている。主催者側からむやみに詰め込むよりも、参加者が「なぜ、自宅でこの食材が余っていたのか」ということを考え、「シェフはこの食材にどんな可能性を見いだしたのか」ということに自ら気づくほうが、次のアクションが生まれやすいからだ。しかも、自分でたどり着いたゴールなので、無理のない範囲で次のアクションを思いつく。それが継続の秘訣なのだ。

「いくら、食材を余らせないように気をつけていても、子どもたちの食べ残しがフードロスの一因になってしまっていました。でも今日のパーティでは、もりもり食べてくれていたので、料理のスキルアップがフードロス削減につながると思いました」と答えてくれたのは、この日、二人のお子さんと参加した専業主婦の豊島葉子さん。フードロスに対する自身の答えを、料理のスキルアップに見いだしていた。

「自分の仕事は、参加者がそれぞれのゴールにたどり着くための『ヒント』を散りばめること。そのためには、心にひっかかりを残すことが大事です。例えば、パーティのお味噌汁に切り干し大根を入れることで、『切り干し大根ってこんな使い方もあるんだね、おいしいね』という会話が、親子の間で生まれたら、それはとっても豊かなことだと思う」と平井さん。参加者が「自分でゴールを発見し、たどり着くよう」、出しゃばることなく、さりげなく手助けする。それが、新しい習慣づくりの確かな後押しとなるのだ。

「手前の牛乳を買う」が解決手段に

サルベージ・パーティは、フードロスを考えるひとつのきっかけにすぎない。日常の買い物意識や習慣を変化させることで、フードロスに貢献できると平井さんは言う。

例えば牛乳を買う時、消費期限・賞味期限を気にしている人は、一日でも期限が先のものを購入しようと、奥から取ることが多い。「それはそれで、賢い買い方かもしれないけれど、『本当に手前の商品の期限で使い切れないのか?』と、一歩立ち止まって考えてほしい」と平井さんは訴える。もし使い切れるのであれば手前の牛乳を買ったほうが、ロスが減る。そういう生活者が増えたら、流通やメーカーにも刺激を与え、大きな変化へとつながるかもしれない。

理想はエコバッグの普及モデル。「かわいい」「便利」「スマート」。生活者が活用し始めたことで、レジ袋の有料化という流れが生まれた。「一歩進むために、自分の身の回りに関する消費に対して丁寧になってほしい」。それが平井さんの願いだ。

買い物の仕方をちょっと変える。人への贈り物の選び方に少しだけ気を使う。フードロスは深刻で大きな課題だが、実は私たちにできることは、そこら中に散らばっている。朝、昼、晩のチャンスのうち、一日一度でも立ち止まって考えることができたら...。ひょっとすると、想像しているよりもずっと小さな努力や小さな善意が、世界を変える力になるのかもしれない。大切なのは、積み重ね。続けたくなる「楽しさ」や、携わることの「誇らしさ」をどう創出するか。そこにすべてのカギがある。

Photography, text=AYAKO SATO

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20160225_digitalboard_03.jpg■プロフィール

平井 巧

honshoku代表/東京農業大学 非常勤講師

SP広告代理店、IT関連会社を退社後、トータルフードプロデューサーとして活動。「表参道ごはんフェス」のほか、フードロスを考える「サルベージ・パーティ」を企画運営。昨年4月より東京農業大学にて多摩川流域のブランディングに取り組む「Resources Project」を立ち上げる。2015年、食のプロデュースチーム「honshoku」を結成。

この記事を書いた人

週刊?!イザワの目
Editorial department

2011年10月20日創刊。
電通PRの若手社員による、電通本社および電通グループを対象に配信しているメールマガジン。2012年11月に全面リニューアルを果たし、現在は瓦版スタイルで発行中。国内外の旬なPR事例を取り上げて解説する特集や、旬な人のインタビューが人気。2014年3月、満を持してマイクロサイトに登場! オリジナルコンテンツなどもアップしていきます。

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