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細田知美のMerciインタビュー/MEN'S CLUB編集長・戸賀敬城さん『リアリティのある雑誌づくりにデジタルは欠かせない』

キーパーソンの声

2015/02/19細田 知美

Episode.4:

デジタルの時代だからこそ読者一人一人が見えてきた。雑誌はもっと読者と密接な関係をつくることができる。

Bonjour, comment ca va?

今回は、ファッションライフスタイル誌『MEN'S CLUB』の編集長、戸賀敬城さんです。

2010年、Twitterが急激に広まり始めた頃、戸賀編集長を中心に開催された"ツブコン"といういわゆる読者イベントオフ会なるものに私が参加した時に、初めて戸賀さんにお会いしました。MEN'S CLUBのリアルな読者や編集長のファンに会えると思い、わくわくしたことを思い出します。それまでのお仕事の関係から、なかなか戸賀さんにお会いする機会がなかったのですが、とにかく人を惹き付けるオーラがあり、一語一句周りの状況を判断しながら話される、とても細やかな気配りのできる方だなという第一印象でした。現在、戸賀さんからいただくご意見やアドバイスは、お仕事をさせていただいている中でとてもありがたく、私が信頼をしている大切な方の一人です。そんな、戸賀敬城さんにインタビューをしました。

戸賀敬城 とがひろくに

『MEN'S CLUB』編集長

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1967年、東京生まれ。MEN'S CLUB編集長。学生時代からBegin編集部(世界文化社)でアルバイト、大学卒業後にそのまま配属となる。1994年Men's Ex(世界文化社)の創刊スタッフ、2002年Men's Ex編集長に。2005年時計Begin(世界文化社)編集長、及びメルセデスマガジン編集長兼任。2006年UOMO(集英社)エディトリアル・ディレクター就任、2007年4月から現職(ハースト婦人画報社)レクサスマガジン「ビヨンド」編集長も兼任する。

●MEN'S CLUB http://www.mensclub.jp/

読者との距離が近いメディア

『MEN'S CLUB』は誌面以外に、WebSite「MEN'S+」やブログ、TwitterやFacebookなどを最大限活用していますが、デジタルについてどのように感じますか。

Twitterを始めた当時は、SNSがこれほど世の中に浸透し拡大していくとは考えていなかった人が大半で、ソーシャルネットワークのパワーをまったく理解していなかったですよね。だけど、あっという間に人々の日常生活に入り込み、あらゆることがめまぐるしく変化した。僕は、SNSのようなデジタル発信のものを受け入れない頑固者ではなかったので積極的に利用しました。デジタルの伸長を脅威に思う出版関係者の中には、自分たちのパイをデジタルに食われたと思っている人も多かったのかもしれません。

でも、TwitterやFacebook、ブログ『トガブロ。』のおかげで、大勢のメンズクラブファンや戸賀のフォロワーさん、友達が数多く生まれました。その結果、今までわかりにくかった個々の読者の姿が見えてきたのです。編集者である僕たちにとっても、またクライアントにとっても、今まで雑誌MEN'S CLUBの向こう側にいて、つかみにくかった読者の特性までもが非常にクリアになるという好結果につながりました。

今は、SNSを通じて読者といい関係が保てていると思っています。以前は、イベントを開催しても、集まった読者数しか捉えきれませんでしたが、今では「どういう人が参加しているか」といった特性までつかめるようになったんです。読者イベントには、企画のヒントや集広のチャンスが山のようにあって、そこにMEN'S CLUBのクライアントは魅力を感じてくださっている。そのおかげで、今では東京だけでなく地方都市でイベントを開催しても、高い集客力と好結果を残すことができています。もちろん、イベントを通して、MEN'S CLUBファンの拡大にも成功しています。

今、雑誌と読者をつなぐツールがFacebookやTwitterなどのSNSだと考えています。あくまでも「今は」ですが。SNSによって、作り手の想像の域を越えなかった読者像、アンケートから割り出す数字で表す読者像が、具体的な実像としてみえるようになったのです。そういう意味でMEN'S CLUBは、読者との距離が非常に近いメディアだと思っています。

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デジタルの世界とうまく手を組む

昨年60周年を迎えた『MEN'S CLUB』の新たな取り組みを教えてください。

MEN'S CLUBが雑誌づくりのベースとしているのは"読者にとってのリアリティ"。読者の90%が会社勤めで、平均年齢は36歳くらい。また40代が35%前後という主たる読者に、リアリティを感じさせる誌面づくりがとても重要だと思っています。たとえば海外のトレンドをそのまま持ち込むことはせず、「日本人に似合うかどうか」「仕事で着られるか」などのフィルターを通したうえで誌面で紹介することを心がけています。これはこれから徹底していかなければならないと感じています。

昨年、創刊60周年という大きな節目を迎えたので、一度"まっさらな状態"で雑誌づくりをしてもいいかなと思っています。リ・スタートということで、誌面デザインを刷新したり、ロゴも変えたり、3年ぶりに表紙のキャラクターを固定化させようということも考えています。その根底にあるのは、"もっと読者に密着した雑誌づくりをする"ということです。

施策のひとつは、クライアントと雑誌と読者の三角関係の距離を、今よりも縮めてより小さい三角形にしていくことです。たとえば、読者の意見を取り入れたブランド別注品を企画する。それは、読者にとっての「欲しい」という煩悩を解消するはずです。加えて、特別なプライスで購入できるメリットがあれば、さらに積極的に参画してもらえるでしょう。当然、ブランドにとっては売り上げに直結します。3者がみなハッピーになれる。その懸け橋をするのが雑誌であり、そういう密な三角関係をつくることを目指していきたいですね。

クライアントだけを優先するのではなく、読者と一緒につくっていく。3者の距離が非常に近い関係の中でモノづくりをすることが、今雑誌が成功する秘訣のひとつだと思っています。

僕はデジタルの世界が雑誌を侵食しているとは思っていません。一緒に手を組むことによって変化しうる紙媒体の形があると考えています。形のひとつが、読者と一緒につくることではないでようか。これはあくまで今現在の答えであって、5年先はわからないのですが(笑)。

デジタルに関しては、もうひとつ。

もしかしたら、刊行形態が紙ではなくデジタル、という新しい雑誌ブランドが、近々生まれるかもしれません。やりたい雑誌ブランドがハースト本社にはたくさんある。『Esquire』ももちろん、その候補です。

自分自身もここ7年ぐらいデジタルとうまく付き合ってきたおかげで、仕事の内容も質も変えることができたと思っています。これまでの蓄積を生かして、今年はデジタルを使った新しいブランドを始めてみたいですね。

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「欲しい」に応えて、Happyに

企業の商品企画やブランディングコンサルにご意見をいただきたいという、知見を生かしたお仕事の依頼は増えていますか。

こういったありがたいお話が最近増えていて、実際かなり動いています。

ある地方に行ったときに飲んだ牛乳がとてもおいしく、それを『トガブロ。』にアップしたことがきっかけで、そのメーカーさんと一緒に新飲料を開発しています。小さなブランドから、大手メーカーの商品開発まで、お話はいろいろといただいています。

ここで重要なのは、MEN'S CLUBの編集長の立場で、読者を代表する意見を伝えているということです。戸賀敬城個人とか、編集長とかはあまり意味がないのです。読者が欲しいモノが売れるモノであるからこそ、読者の「欲しい」に応えなくてはなりません。そこを常に意識しているのです。

携わった商品の発売後にメーカーさんから、MEN'S CLUBの意見を反映したものが一番売れた、と評価していただけることがいちばんありがたく、うれしいことです。こういった作業はメーカーも消費者も編集者もみんなハッピーになれるんです。

でも、言うのは簡単ですが、実際におこなうのは難しいものです。でも、このようなニーズは今後、もっと増えていくと思います。

MEN'S CLUBは、読者の側に立っていることで高く評価されているのだと思っています。書店での売り上げに加え、定期購読は現在8,000部を超え、電子書籍も3,000部を超えています。それらすべての読者の方々は、我々の"顧客"であると考えています。読者の中にも顧客は存在するという考え方。これまでは雑誌だけが、顧客を持たないビジネスをしていたと思います。MEN'S CLUBでは、"顧客ビジネス"という新しい仕組みを構築し、それをタイアップページとして成立させています。広告代理店から広告料金だけをいただいて、漫然とページをつくるという感覚では、雑誌の価値も下がると思っている。クライアントの狙いを十分に理解しながら、顧客のニーズや煩悩を考え、それを充足する橋渡しをしているのが編集部だと思っています。そこにビジネスの醍醐味がある、そんな風に考えられる人と仕事をしていきたいと思っています。

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こんな人と仕事をしてみたい!直感で思った

雑誌の編集というお仕事をすることになったきっかけを教えてください。

大学時代、叔父が編集者として勤務していた『週刊プレイボーイ』のお手伝いをしていました。だから自然に編集という仕事に興味をもちました。でも、週プレには、自分が好きなファッションページはありませんでした。

私が14歳の時に父が他界したため、叔父はとくに私を可愛がってくれました。叔父の家によく寝泊まりしていましたが、昼頃起床した叔父が玄関前に到着したハイヤーに乗って出勤する姿を見て、「なんなんだ、この幸せそうな生活は!?」と思ったことからも、編集者という職業に思い憧れました。いい時代だったんですよ(笑)。

時はバブル真っただ中。就職活動する年齢となり、いくつも内定を決めていました。そして世界文化社からも内々定をもらいましたが、実は営業職での応募でした。最終面接で人事担当の部長さんが「会わせたい人がいる」と連れていかれたのがBegin編集部。そこで当時編集長だった岸田一郎氏とお会いできました。編集部に二人きり、しかも隣同士で椅子に座り、間近でお話をしたんです。「お前、なんでアルマーニのネクタイしてるんだ!」と、岸田さんは突然、僕のネクタイをわしづかみ。その時の僕はロレックスの腕時計をしてスーツもエンポリオ・アルマーニ。そんな僕と一対一でしばらくお話しくださった。最後に岸田さんから「お前を編集で採用する。他にもらっている内定はすべて断って、うちに来い」と目を見ながら力強く言われたんです。"こんな人がいるなら、絶対にBegin編集部に行きたい!"と、決心しました。

翌週には内定が出て、岸田さんに連絡したところ「明日からバイトに来い」と言われました。「わかりました」と即答し、あっさり大半のバイトを辞め、翌日9時半に会社に行きました。でも、朝早くて編集部には誰もいませんでした(笑)。

そんなわけで、僕の編集者人生はBegin編集部の岸田編集長のもとで始まりました。

とにかく岸田さんは凄い人だと思いました。部下がやったことをきちんと評価してくれる、こんな人と仕事をしてみたい、直感でそう思いました。

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最後に、雑誌とは...

雑誌はエンタテインメントのひとつだと思っています。

残念ながらエンタメ産業全体が、人気が低下していると考えています。しかしなぜか雑誌だけがとくに斜陽と言われている。でも僕は全然そう思っていません。人気が低下しているのは、何も雑誌にだけ見られる現象ではないのです。

いうまでもなく、今は個々人で好みが細分化され、一般的な大枠では人々の嗜好を語りきることはできません。それゆえにエンタメ人気が低下していることは仕方がないことだと思います。新しい時代がきているのです。

雑誌は斜陽なんかじゃなく、新しい時代を迎えているのだと思っています。

読者像を勝手にイメージしてページをつくるのではなく、もっとはっきりと一人一人の読者の姿を見なければならない時代が来ただけなんです。

それならもっと読者に近づいてもっと彼らの意見を取り込みたい。そして読者から顧客を生み出す、そういう考えを持ち続けていきたいです。

この記事を書いた人

細田 知美
Senior PR Planner

コンサルタント。メディアプロモーター。ファッション誌ライフスタイル誌モノ誌など雑誌の世界を中心に、メディアとのコミュニケーションを築きながら日々活動中。フランス在住経験や、元ジュエリーデザイナー、秘書、広報PRと多様な経歴を持ちインフルエンサーとの交流も多方面に広がっていて、メディアプロモート活動にも大いに生かされている。

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